タコピーの原罪 しずまりコンビが百合っぽいと言われる理由を場面から検証！

「それって、ほんとうに“いじめ”だったの？」

心をえぐる問いと共に幕を開けた『タコピーの原罪』。なかでも、雲母坂しずかと東まりな――通称「しずまり」コンビの関係性が「百合っぽい」と注目され続けているのをご存じでしょうか。

支配と依存、加害と被害。そんな冷たい言葉では語りきれない、ふたりの“絆のような何か”。本記事では、実際の場面をひとつひとつ丁寧に拾い上げながら、「なぜ百合的に見えるのか」を感情と構造の両面から深掘りしていきます。

読み終えたとき、「しずまり」という言葉に、今までとは違う色が宿るはずです。

『タコピーの原罪』とは？百合的解釈が広がる背景

作品概要と物語構造の特殊性

『タコピーの原罪』は、うめざわしゅん氏による短期連載マンガ作品で、2021年から「少年ジャンプ＋」にて全16話で完結したコンパクトな構成ながら、読者の心を深く抉る展開で話題をさらいました。タコピーという“ハッピー星人”の異星人キャラが登場することで、最初は可愛らしいコメディを予感させますが、そこから突き落とされるように始まるいじめ、家庭環境の闇、死の描写といった重いテーマ群が作品の骨格を形成しています。

そんな中でも、しずかとまりなのふたりの関係性──いわゆる“しずまりコンビ”が「百合的」と話題になったのは、単に女の子同士で絡みが多いからではありません。むしろその構造は“愛しさ”とは程遠く、“支配”や“依存”、あるいは“自己投影”といった、感情のもっと深く粘着質な部分が表面化しているからこそ、読者はこの関係に目を離せなくなったのです。

この物語の凄まじさは、ただ悲しいとか辛いでは済まされない、「これはどこまでが友情で、どこからが憎悪なのか？」という境界線のグラデーションにあります。読者は、誰かを好きになった記憶や、誰かに必要とされたかった過去と無意識に重ねながら、しずまりの描写を“百合っぽい”と受け取るのかもしれません。

つまりこの作品は、「百合」の文脈においてすら異質なのです。日常の延長としてのガールズラブではなく、心の裂け目にすがり合う少女たちの物語。しかもそれをSFコメディの皮を被せて届けてくる──そのギャップが、より一層、しずまりコンビの感情の歪さを際立たせます。

『タコピーの原罪』という作品全体が、読者の“感情の揺らぎ”を起点に展開されているため、百合的に読まれる余地もまた、物語構造の中に組み込まれているとすら感じます。

“百合っぽさ”が話題になるという事実そのものが、この物語の問いかけの鋭さを証明しているのではないでしょうか。

ファン層の感情を動かした“しずまり”の存在感

「しずまり」という言葉は、公式なものではなく、読者やファンが自主的に使い始めた造語です。これは“しずか×まりな”の関係性に、単なるいじめっ子と被害者という枠では語れない“繋がり”を感じ取ったからこそ、生まれた名称だと思います。

実際にTwitterやYouTube、pixivなどでは、“しずまり”を軸にしたイラスト、ショート漫画、手描き動画などの二次創作が多数見られます。その多くは、原作の重さを反映しながらも、日常的なほのぼの要素や百合的ニュアンスを強調した構成が多く、「このふたり、もっと幸せになってよ……」という願いにも似た感情が透けて見えるのです。

ある意味で、“しずまり百合”とは、読者が「タコピーの原罪」という地獄のような物語を咀嚼し、昇華しようとするプロセスの一端なのかもしれません。暴力の記憶を、やさしい関係性に変換して消化する。それこそが“百合”というジャンルが長年培ってきた、ひとつの機能なのだとしたら──しずまりは、その最先端にあるとも言えるのです。

また、百合的に読まれる理由には、二人がそれぞれ家庭から孤立しており、互いに向ける視線が極端に強調される演出構造もあります。しずかはまりなに「お前さえいなければ」と言い放ちつつ、内心では彼女にだけ心を開いているような描写も。まりなもまた、しずかに「どうしてわかってくれないの？」という哀願にも似た気持ちをぶつけています。

そうしたひりつくような関係のすべてが、読者の感情に火をつけた。それが、「しずまり」という言葉の熱を、今日に至るまで保ち続けている理由なのです。

「しずまり」が百合っぽいと感じられる理由とは？

加害と被害を超えた“相互依存”の構図

『タコピーの原罪』における「しずまり」──すなわち雲母坂しずかと東まりなの関係性は、表面的には“いじめる側”と“いじめられる側”という構図に見えます。しずかは繰り返しまりなを無視し、暴力を振るい、タコピーにさえ隠していた怒りを彼女に向けます。一方のまりなは、しずかの行動に怯えながらも、彼女の存在を否定しきれず、むしろどこかで“見つめ返されたい”という感情すら垣間見せる。ここにあるのは単なる対立ではなく、依存と執着、そして自己投影による複雑な“繋がり”です。

この依存関係は、物語の進行とともにむしろ強化されていきます。しずかにとって、まりなは自分の闇をぶつけられる唯一の相手であり、それはある種の“感情の拠り所”です。暴力を振るうことでしか自分の存在を確かめられないしずか。そんな彼女に執着されながらも、まりなはタコピーとの交流を通じて少しずつ自己肯定感を回復し、最終的には「わかってほしかったのは、しずかだったんだ」と気づくに至る。

このような構図は、いわゆる“百合”の中でも特異なパターンです。一般的なガールズラブにおける“相思相愛”や“無垢な共感”ではなく、ここには歪んだ絆、暴力と愛の交錯があります。だからこそ「百合っぽい」とされるしずまりの関係は、読者の記憶に強く刻まれるのです。

この“相互依存”というキーワードこそが、「しずまり百合」を語る上での鍵だと、私は感じます。互いが互いの心を壊しながら、それでも離れられない。そして最終的に、それを肯定せざるを得ない瞬間が訪れる。それはもはや“愛”ではないのか、と。

だから、タコピーの存在がもたらす変化は決定的なのです。彼の介在によって、ふたりは初めて対等な“関係”として相手と向き合うことができた。そしてそれが、百合的な共鳴を生むラストへと繋がっていくのです。

対立から共鳴へ──終盤の「百合友情エンド」分析

『タコピーの原罪』の終盤は、これまで積み重ねられてきたしずまりの関係性を、“再解釈”させる構成になっています。タコピーが犠牲となったことで時間が巻き戻り、ふたりは“元の世界”の記憶をうっすらと保ったまま、小学校で出会い直す。そこでしずかは、まりなの目をしっかりと見て、「ごめん」と小さく呟く──それだけのシーンなのに、涙が止まらなかった読者は多かったはずです。

このシーンが「百合友情エンド」として話題になったのは、単に謝罪があったからではありません。しずかの謝罪には、過去のすべてを“自分で引き受ける”という覚悟が見える。そしてまりなも、過去をなかったことにせず、「いっしょに絵を描こう」としずかに手を差し伸べる。ふたりはもはや“敵”ではなく、“対等な存在”として繋がり直しているのです。

ここに描かれたのは、「許し」ではなく「共感」の物語。しずかがまりなに与えた傷は消えない。でも、まりなはそれを抱えたまま、しずかを受け入れた。これはまさしく、“赦し”ではなく“選択”の百合。心の深いところで繋がったふたりが、これからまた別の関係を紡いでいくという希望が、確かにあの一瞬に込められていたのです。

「しずまり百合」──その真価は、過去の清算でも、未来の約束でもなく、“いまこの瞬間”を互いに受け入れる勇気にあります。

それは単なる友情の延長ではなく、“傷ついた者同士が手を取り合う”という、百合という表現形式が持つ癒しの力そのものでした。

だからこそこのラストは、いまでもSNSで語られ、しずまりという言葉が色褪せることなく愛され続けているのです。

場面から読み解く“しずまり百合”の実態

初期：しずかの暴力とまりなの涙が交差する

物語の序盤、『タコピーの原罪』は“ハッピー星人”という不思議な存在・タコピーの視点を通して、日常の闇を描き始めます。中でも強烈なのが、しずかがまりなを容赦なく無視し、時には暴力をもって排除しようとする場面です。まりなが廊下で転ばされたり、しずかが筆箱を投げつけるシーン。子どもがやるにはあまりに苛烈な行動ですが、そこには明確な“敵意”だけではなく、感情の“逃げ場”を失った少女の叫びが見え隠れします。

読者の中には「なぜここまで酷いことを？」と感じた方も多いでしょう。でも私は、その“酷さ”の裏に、“気づいてほしい”という願いが見える気がしてなりませんでした。しずかは、まりなが自分の家庭環境を知っていると誤解し、それを“裏切り”と捉えていた。だからこそ、彼女にだけ牙を剥く。つまり、“まりなだからこそ”向けられた感情なんです。

そして、それを受けるまりなもまた、ただの被害者ではない。しずかに「なんで私だけ…」と泣きながら訴えるその姿は、“理解されない苦しみ”の表現に他なりません。どこかでしずかに分かってほしかった。自分もまた家庭のことで孤独だったことを──。

この段階のふたりは、明らかに“ズレたまま”すれ違っている。それでも、互いの感情が交差する瞬間の重たさが、読者に「これはただのいじめ描写じゃない」と直感させたのではないでしょうか。

百合という文脈でこのシーンを読み解くとき、重要なのは“視線”です。しずかが向ける敵意、まりなが返す涙のまなざし──それは、無関心な他人では決して成立しない、“関係性の強さ”が前提になっている。

中盤：タコピーを介した感情の転移と誤解

物語が中盤に差しかかると、“しずまり”の関係にもう一つの軸が加わります。それがタコピーという存在。彼は誰よりも純粋で、“ハッピーになる”ことだけを信じて動く存在です。そんなタコピーに、しずかもまりなも少しずつ心を開いていく。この過程で描かれるのが、ふたりの感情の“転移”です。

しずかはタコピーに対して、「唯一自分を裏切らない存在」として執着を強めます。その一方で、まりなはタコピーに優しくされる中で、自分が他者に受け入れられる可能性を知るようになります。この“感情のベクトル”の違いが、ふたりの誤解を深めていく。

しずかにとって、まりながタコピーに近づくことは“裏切りの再演”だったのかもしれません。だから、彼女はますますまりなを傷つけ、タコピーを独占しようとする。一方まりなは、タコピーを通して“自分も人を好きになれる”という感情を芽生えさせた矢先、再びしずかに拒絶される。ここにあるのは、ふたりの心が交わる寸前で“逸れる”感覚です。

百合としての“しずまり”を語るなら、この中盤の誤解こそが核心だと私は思います。関係性におけるすれ違いは、“近さ”の裏返し。タコピーという媒介があったからこそ、ふたりの心の奥底にあった感情が可視化された──それが中盤の最大の見どころです。

「誰かを好きになるって、こんなに痛いんだね」と語りかけてくるような、しずまりの中盤描写。これはまさに“百合の痛み”そのものではないでしょうか。

終盤：タコピーの犠牲がもたらした共感の目覚め

そして、物語は終盤、タコピーの“原罪”とも言える選択へと突き進みます。過去をやり直すために自らを犠牲にしたタコピー。その結果、世界は巻き戻り、ふたりの少女は別の時間軸で“やり直す”ことになります。

このラストの“静かな再会”が、しずまり百合の真骨頂です。過去の記憶がうっすらと残る中で、しずかはまりなに「ごめん」と声をかけ、まりなはその言葉を静かに受け止める。そこに涙はない。でも、確かに“赦し”と“受容”がある。言葉ではなく、まなざしと間によって表現されたこの関係性に、心を打たれた読者は多いはずです。

この“静かなエンディング”にこそ、「しずまり」という関係の答えがあるのかもしれません。暴力や憎しみで始まった物語が、最後には“共感”によって終わる──それは、少女たちが“百合的な結末”へたどり着いたという証にも見える。

私はここで、“百合”という言葉の持つ意味を再認識しました。恋愛を超えた場所で、ふたりが互いを認め合うこと。痛みを抱えたまま、それでも一緒にいること。しずまりは、その姿を最後に見せてくれたのです。

『タコピーの原罪』という作品が、百合という視点でも語り継がれていく理由。それは、終盤のこの“共鳴”の瞬間に、すべてが詰まっているからだと私は思います。

ファン創作・SNSが育てた「しずまり百合」文化

イラスト・漫画・二次創作における百合的表現

『タコピーの原罪』は全16話という短編ながら、読者の心に強烈な爪痕を残しました。なかでも“しずまり”──雲母坂しずかと東まりな──という二人の少女の関係性は、ファンの二次創作文化において独自の広がりを見せています。SNSではイラスト・ショート漫画・手描き動画など、様々な形で「しずまり百合」が表現されており、原作が終わった後もその熱は冷めることを知りません。

特に多いのが、「もしふたりが平和な世界で出会っていたら……」という“平行世界”設定の作品群です。教室で一緒にお弁当を食べたり、休日にショッピングを楽しんだり──そんな、原作では絶対に描かれなかった“日常”が、ファンの手によって描かれる。そのどれもが優しくて、切なくて、まるで“百合日常系”作品のような温度を宿しているのです。

中には、百合ラブコメ風にパロディされたものもあります。「ツンデレしずかがまりなにキス寸前まで詰め寄る」なんて描写や、「まりながしずかの部屋にお泊まりしてドキドキする」という王道の百合展開まで──。あの地獄のような原作を読んだあとに、こうした“百合世界線”に触れると、なんだかこちらまで救われる気がしてくるのが不思議です。

このように、原作の辛さを受け止めた上で、“幸せな二人”を妄想するという創作文化は、まさにファンによる癒しの儀式。「もしもの未来」に百合を重ねて、しずまりの関係性を“もうひとつの結末”として描く。それは愛であり、共感であり、記憶の再編成でもあります。

そして何より、“しずまり百合”を描くファンたちの感情の源泉は、「もっとしずかを救ってほしかった」「まりなにとって、誰かが必要だった」という願いに他ならない。この創作たちが、ただのカップリングを超えて、作品そのものへの祈りになっていることが、“しずまり百合”の文化としての深みを物語っています。

しずまりカップリング考察と“尊死”コメントの温度

「しずまり百合」は、創作だけに留まりません。TwitterやYouTube、ブログなどの考察系コンテンツでは、「しずまりの関係性は本当に百合と言えるのか？」といった問いかけや、「タコピーの原罪が描いた少女同士の感情のリアルさ」について熱く議論されています。

中でも注目されるのは、百合的要素としての“眼差し”と“沈黙”の使い方に対する言及です。視線だけで通じ合う瞬間、言葉にできない感情を伝える“無言”の演出。そうした細やかな描写が、「これ、百合じゃん……」と読者を唸らせたのです。

また、しずまり関連の投稿には「尊すぎて泣いた」「キスしながら唾を吐け！」「和解エンドで死んだ」など、過激ながらも愛に満ちた“尊死コメント”が並びます。これはもはやカップリング考察というより、“感情の共鳴”そのもの。読者自身の傷や願望が、しずまりという関係に重なることで、“百合的な癒し”を得ているのではないでしょうか。

私自身、しずまり関連の創作を追っていると、「ああ、このふたりにはまだ未来があるんだ」と思える瞬間に出会えます。たとえば、しずかがまりなに花を渡すだけの1枚絵。それだけで胸がいっぱいになる──それは、言葉以上に深いメッセージを宿しているからです。

こうしたファン活動が、原作に“もう一つの可能性”を与えている。暴力も、孤独も、すれ違いも、すべてを包み込んで、「ふたりはつながっていたんだ」と語り直す。だから、しずまり百合は消費されない。愛され続け、育ち続ける感情なのです。

しずまり百合の本質は“感情の孤独”にある

「わかってほしかった」だけの少女たち

『タコピーの原罪』で描かれるしずまり──しずかとまりなの関係性が、なぜこれほどまでに“百合っぽい”と感じられるのか。その核心にあるのは、「わかってほしかった」という叫びにも似た感情の根っこにある“孤独”だと、私は思います。

しずかは、家庭での虐待や無視という過酷な現実を前に、自分の感情の置き場を失っていました。誰にも気づかれない。助けてもらえない。そのどうしようもない闇の中で、彼女はまりなに感情をぶつけることでしか、つながりを感じられなかったのです。暴力も罵声も、彼女なりのSOSだった。

一方のまりなもまた、表向きはしずかより“恵まれて”見えるけれど、父親からの精神的抑圧や、友人関係の空虚さに晒されていました。だからこそ、しずかの冷たさの中にさえ、「この子は、私を見てくれている」という感覚をどこかで求めていた。まりなの涙は、単なる悲しみではなく、“届かなさ”への絶望だったように思えてなりません。

ふたりの行動は決して称賛されるものではないし、関係性はあまりに歪んでいます。でも、その根底にはたしかに、「ひとりじゃないって思いたかった」「誰かに気づいてほしかった」という純粋な願いがある。しずまり百合の本質は、この“孤独の共鳴”にこそ宿っているのです。

私たちは、ふたりが一緒にいた理由を、“好きだから”ではなく、“必要だったから”と理解しようとする。それは恋よりもずっと重い感情──だから、しずまりは“ただの百合”では語り尽くせない。

なぜ“百合”という視点で語られるのか？

「しずまり百合」という言葉は、単にふたりが少女同士だから、というだけでは説明がつきません。むしろ、あの歪んだ感情のやりとり、支配と依存、拒絶と共感の繰り返しを、“百合”という枠で読みたくなるのは、そこに“言葉にならない感情の交流”があるからではないでしょうか。

百合というジャンルは、往々にして“言葉にできない気持ち”を描きます。友情とも恋愛ともつかない、“ただそこにいたい”という感情。しずまりの関係性もまた、まさにその領域にあります。「好き」とか「愛してる」なんてセリフはひとつもなく、むしろ傷つけ合い、突き放す。でも、それでも離れられない。

タコピーの犠牲によって“再会”したラストシーンでは、ふたりはようやく、言葉を超えた“理解”のステージに立ちます。「ごめん」と一言。それだけで、すべてが伝わってしまうような関係。ここにこそ、百合が描きたかった本質的な“つながり”の形があるように感じました。

また、しずまり百合を語る際に欠かせないのが、“読者側の投影”です。しずかの怒りに、まりなの涙に、自分の過去や感情を重ねた読者たちが、「このふたりには幸せになってほしい」と願う。その願いが、しずまりを“百合”という救いの形式で再解釈させているのだと、私は思います。

だから、しずまりは“百合っぽい”のではなく、“百合であってほしい”と願われる関係なのです。それは一種の祈りであり、救済であり、そして読者自身の心の整理でもある。『タコピーの原罪』という重すぎる物語の中で、百合という視点があるからこそ、人はそこに“救い”を見いだせる。

しずまり百合の核心にあるのは、恋愛でも友情でもない、“感情の孤独を埋め合う”という本質。それはまさに、百合というジャンルが描き続けてきたテーマの、最も深くて、やさしい部分なのかもしれません。

まとめ：タコピーの原罪としずまり百合の可能性

「しずまり百合」が教えてくれた感情の輪郭

『タコピーの原罪』という作品が、なぜここまで深く読者の心に残るのか──そのひとつの答えが、しずまり百合という視点にあります。しずかとまりな、ふたりの少女の関係性は、言葉にすればするほどその“歪さ”が際立つけれど、同時に“真実味”も増していく。それは、人が人を必要とする本能的な欲求、そして「わかってほしい」という普遍的な孤独の叫びが描かれているからです。

この百合的解釈は、決して後付けの妄想ではありません。むしろ作品そのものが、“恋愛でも友情でもないけど、確かに誰かとつながっていたい”という感情の機微を丁寧に描いていた。だから読者はしずまりに共鳴し、しずかを嫌いになれず、まりなを守りたくなり、タコピーの犠牲を“意味のあるもの”にしたくなる。物語の感情線に寄り添えば寄り添うほど、しずまりは“百合の物語”として語られるべきだと思えてくるのです。

しずまり百合という言葉には、ただのカップリング以上の深い意味が詰まっています。それは「ふたりが恋人同士だったら素敵だね」という夢想にとどまらず、「このふたりがいたから、私はこの物語を忘れられなかった」という読者自身の“記憶”に関わっている。百合という形式が、読者の感情の整理や共感の装置として機能していることが、しずまり百合の文化的意義を際立たせています。

私は、百合とは単に“同性愛を描くジャンル”ではなく、“言葉にできない感情を映し出す鏡”だと思っています。しずまりは、その鏡に映された、いびつで、でも美しい心の形。そのことを多くのファンが感じ取ったからこそ、たとえ原作が完結しても、SNSや創作の中で“続き”が描かれ続けるんだと思うんです。

しずまり百合は、読む人の数だけ解釈がある。でもそのすべてに通底するのは、「誰かを求める気持ちって、きっと罪じゃない」という優しい真実。だから今でも、そしてこれからも、『タコピーの原罪』は“百合というレンズ”を通して読み返され続ける──そう確信しています。

物語の“再解釈”が示す可能性

『タコピーの原罪』のすごさは、その短さにもかかわらず、読者に“二度、三度と読み直したくなる問い”を残したところにあります。最初に読んだときには見えなかった感情の綾、見過ごしていた視線の交差、それがしずまりという視点で再解釈されることで、一気に物語の輪郭が変わって見えるのです。

とくに最終話の“再会”シーン。あれを「和解エンド」と見るか、「百合友情の到達点」と見るか、「新たな始まり」と見るか。読者の経験値や感受性によって、見え方がまるで違う。だけど、どんな視点でも揺るがないのは、あの一言──「ごめん」に込められた、しずかの変化とまりなの受容。その瞬間だけは、すべての解釈がひとつに重なる。

ここに、物語が持つ“多層性”と“読者参加型の価値”が現れています。しずまり百合とは、ただの読解ではなく、物語をもう一度生き直す体験なのです。タコピーの原罪が過去を変えたように、私たち読者もまた、解釈によって“別の未来”をつくっている。

これは、現代の作品消費においてとても重要な構造です。短期連載だった『タコピーの原罪』が、これほどまでに愛され、語られ、考察され、描き続けられる理由。それは、物語が“完成されていない”からではなく、むしろ“解釈の余地を持って完成されている”から。だからこそ百合視点というフィルターが意味を持ち、“しずまり”という言葉が文化になるのです。

「もう終わった物語」じゃない。むしろ、いまもどこかで続いている物語として、しずまり百合は息をしている。それは、読者の想像力と感情が、作品に新たな命を与えているという証拠に他なりません。

しずまりは終わらない。『タコピーの原罪』は、読むたびに何度でも“百合”として再生する──そう、私たちの中で。