『薬屋のひとりごと』の原作者は小説家の日向夏(ひゅうがなつ)さんです。漫画版は2種類あり、ねこクラゲさん、七緒一綺さん、倉田三ノ路さんらが制作に携わっています。
この作品が少し特別なのは、同じ物語が複数の描き手の手によって、それぞれ異なる表情を持っていることです。猫猫の冷静な視線も、壬氏の言葉にならない感情も、誰がどの役割で描いているのかを知ると、また違って見えてきます。
『薬屋のひとりごと』の作者は誰?原作・構成・作画の担当者一覧
『薬屋のひとりごと』は、日向夏さんが生み出した小説を原点とする作品です。漫画版では原作・構成・作画という役割が分かれており、さらに出版社の異なる2つのコミカライズが存在します。
最初に、制作に関わる主要な担当者を整理しておきましょう。
担当者 役割 担当作品・内容
日向夏 原作・小説執筆 『薬屋のひとりごと』の物語を創作
しのとうこ イラスト・キャラクター原案 ヒーロー文庫版小説の挿絵、漫画版のキャラクター原案
ねこクラゲ 作画 スクウェア・エニックス版漫画
七緒一綺 構成 スクウェア・エニックス版漫画
倉田三ノ路 作画 小学館版漫画『猫猫の後宮謎解き手帳』
ここで押さえておきたいのは、原作者は日向夏さん一人であり、漫画の作画担当者が異なっても、物語の原点は共通しているという点です。
例えば、スクウェア・エニックスの『月刊ビッグガンガン』で連載されている漫画のクレジットには、原作・日向夏、作画・ねこクラゲ、構成・七緒一綺と記されています。
一方、小学館の『月刊サンデーGX』で連載されている『薬屋のひとりごと〜猫猫の後宮謎解き手帳〜』では、原作・日向夏、作画・倉田三ノ路、キャラクター原案・しのとうこと表記されています。
つまり、「『薬屋のひとりごと』の漫画作者は誰?」という疑問には、どちらの漫画を指しているかによって答えが変わります。
ただし、どちらも日向夏さんの小説をもとにした作品であり、無関係な別作品ではありません。
ここが面白いところです。
同じ物語を共有していても、読者が受け取る感情の形は一つとは限らない。僕は、この作品の複数コミカライズという成り立ちそのものに、物語表現の奥深さを感じます。
原作小説と漫画版では作者の意味が違う
小説について「作者」といえば、基本的には文章を書き、登場人物や物語を創作した人物を指します。
しかし漫画の場合、原作者が物語を提供し、別の人物が画面構成や作画を担当することがあります。
『薬屋のひとりごと』は、まさにそうした作品です。
日向夏さんが築いた物語の骨格を、ねこクラゲさんや倉田三ノ路さんが漫画という表現へ置き換えています。
そしてスクウェア・エニックス版では、七緒一綺さんが構成担当として参加しています。
原作と作画を単純に同じ仕事として考えないことが、制作体制を正しく理解する第一歩になるでしょう。
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原作者・日向夏とは何者?『薬屋のひとりごと』誕生までの経歴
日向夏さんは、福岡県出身の小説家・ライトノベル作家です。
代表作でありデビュー作でもある『薬屋のひとりごと』は、2011年10月に小説投稿サイト「小説家になろう」で連載が始まり、2012年に書籍化されました。
ここで興味深いのは、日向夏さんが当初から職業作家になることを強く目指していたわけではないという事実です。
2025年5月30日に公開されたMANTANWEBのインタビューでは、作品が生まれた背景について、かなり率直に語っています。
『薬屋のひとりごと』が生まれたきっかけは2011年の東日本大震災
日向夏さんが再び小説を書くようになった背景には、2011年3月11日に発生した東日本大震災がありました。
当時、日向夏さんは関東に住んでおり、震災後の娯楽が限られた生活の中でインターネットを閲覧していたといいます。
その際に出会ったのが、小説投稿サイト「小説家になろう」でした。
学生時代には小説を書き、賞に応募した経験もありましたが、その後は執筆から離れていたそうです。
大学時代に小説を書いていた動機についても、賞金を得られればよいという実利的な考えがあったことを明かしています。
さらに、警察官や農家になることを考えた時期もあり、最終的には会社員になったという経歴も語られています。
こうした背景を知ると、『薬屋のひとりごと』の誕生は、あらかじめ計画された大規模な創作プロジェクトではなかったことが分かります。
震災後の日常の中で、以前から持っていた創作への関心が再び動き始めた。
個人的には、この偶然ともいえる出発点が強く印象に残ります。
あれほど緻密な人間関係を描く物語が、最初から壮大な成功を目指して設計されたわけではない。その事実には、不思議な余韻があります。
日向夏のペンネームは果物が由来だった
もう一つ、作者について知っておきたいのが名前の由来です。
日向夏さんは、もともと「うりぼう」というペンネームで作品を発表していました。
ところが2012年の書籍化に際し、編集者から名前の変更を求められたため、「日向夏」というペンネームに変更しています。
由来は、日向夏さん自身が好んでいる果物の「日向夏」です。
そのため、名字が「日向」で名前が「夏」という意味ではなく、果物の名称と同じく、一続きのペンネームとして扱われています。
読み方は「ひゅうがなつ」です。
2020年5月18日の本人のSNS投稿でも、姓名に分けないというこだわりが示されていました。
ちなみに、ペンネームを変更した後も、二足で立つ若いイノシシのキャラクター「うりりん」をアバターとして使用しています。
日向夏さんは公の場で基本的に素顔を公開しておらず、2024年8月には「うりりん」の着ぐるみも制作されました。
2025年の「TVアニメ『薬屋のひとりごと』展」東京会場では、主人公・猫猫の着ぐるみと並んで写真を撮影したことも伝えられています。
顔を出す代わりに、昔のペンネームの名残を持つキャラクターでファンと交流する。
その選択からは、作家本人と作品の距離を大切にしているようにも感じられます。

『薬屋のひとりごと』の原型は3人の子どもを持つ女性のミステリーだった
僕が日向夏さんのインタビューで、とくに興味を引かれたのは、主人公・猫猫の誕生秘話です。
現在の『薬屋のひとりごと』といえば、華やかな後宮を舞台に、薬や毒の知識を持つ少女が事件の謎を解き明かす物語として知られています。
しかし、最初から現在の設定だったわけではありません。
日向夏さんが当初考えていたのは、鉱山の街に暮らす、3人の子どもを持つ女性を主人公としたミステリーでした。
毒によって亡くなった人物を発見するという筋立てであり、舞台も登場人物の年齢も、現在の作品とは大きく異なります。
ところが「小説家になろう」の読者層を考慮すると、若い主人公の方が受け入れられやすいのではないかと考えたそうです。
そこで主人公を10代に変更し、経験豊富な大人の女性ではない彼女に知識を持たせるため、薬屋という設定を採用しました。
舞台についても、鉱山の街から華やかな後宮へと変更しています。
後宮なら毒が登場しても物語として不自然ではなく、権力や人間関係をめぐる事件も描きやすい。
こうした調整を重ねる中で、現在の猫猫と後宮の世界が生まれたのです。
ここには、非常に重要な創作上の特徴があります。
猫猫が薬師であるという設定は、単なる個性づけではなく、若い主人公が事件を解決するための説得力にもなっているということです。
猫猫は、最初から社会的な権限を持つ人物ではありません。
むしろ身分の低い立場から、知識と観察力によって周囲の矛盾を見抜いていきます。
僕は、その人物造形が作品の魅力を支える大きな要素だと考えています。
彼女が後宮という閉ざされた世界で自分の判断を手放さずにいられるのは、薬師として培った知識があるからです。
そして、その知識さえあれば何でも解決できるわけではないところに、この作品独特の苦さがあるのでしょう。
漫画版『薬屋のひとりごと』はなぜ2種類ある?担当者の違いを整理
『薬屋のひとりごと』の作者を調べると、別々の漫画家の名前が出てくることがあります。
その理由は、2017年から異なる出版社で2種類のコミカライズが展開されているためです。
どちらも同じ日向夏さんの小説を原作としていますが、漫画としての制作体制が異なっています。
スクウェア・エニックス版はねこクラゲが作画、七緒一綺が構成
スクウェア・エニックス版の漫画『薬屋のひとりごと』は、『月刊ビッグガンガン』2017年6月号から連載が始まりました。
担当者は次の通りです。
- 原作:日向夏
- 作画:ねこクラゲ
- 構成:七緒一綺
- キャラクター原案:しのとうこ
- 掲載誌:月刊ビッグガンガン
- 出版社:スクウェア・エニックス
この漫画で特徴的なのは、原作と作画だけでなく、「構成」という役割が明記されている点です。
七緒一綺さんは、その構成を担当しています。
小説と漫画では、物語の伝え方が根本的に異なります。
小説であれば、猫猫の思考や周囲の状況を文章で説明できますが、漫画では表情、コマ割り、セリフ、視線の誘導などによって伝える必要があります。
そのため、どの出来事をどの順番で見せるか、説明をどこまで省くか、どこで読者の注意を引くかという判断が重要になります。
ただし、七緒一綺さんが個々の場面で具体的にどこまで担当しているのかについては、公開されているクレジットだけでは断定できません。
ここでは、公式に確認できる「構成担当」という役割として理解するのが正確でしょう。
そしてねこクラゲさんは、漫画の作画を担当しています。
猫猫の表情、後宮の衣装、人物同士の距離感などを、視覚的な表現として読者へ届ける役割です。
僕はこの制作体制を知ると、漫画の一場面が持つ意味を以前より意識するようになります。
小説の中に存在していた感情が、漫画では一枚の絵や一瞬の表情に託される。その変換の過程にも、別の創作があるのだと思うのです。
小学館版『猫猫の後宮謎解き手帳』は倉田三ノ路が作画
もう一つの漫画が、小学館の『月刊サンデーGX』で2017年9月号から連載されている『薬屋のひとりごと〜猫猫の後宮謎解き手帳〜』です。
こちらの制作体制は次のようになっています。
- 原作:日向夏
- 作画:倉田三ノ路
- キャラクター原案:しのとうこ
- 掲載誌:月刊サンデーGX
- 出版社:小学館
スクウェア・エニックス版とは異なり、公式の主要クレジットに独立した構成担当者の名前は記載されていません。
倉田三ノ路さんは、『書生 葛木信二郎の日常』『天穹は遥か』などを手がけた漫画家です。
『猫猫の後宮謎解き手帳』でも、猫猫が持つ知識と観察力、事件を読み解く過程が漫画として描かれています。
なお、2種類の漫画は、片方がもう片方の続編という関係ではありません。
同じ原作小説を、それぞれの制作陣が独立して漫画化している作品です。
この違いを知らずに単行本を探すと、表紙や巻数の違いに戸惑うかもしれません。
原作小説を共通の土台としながら、漫画としては別々のシリーズになっていると考えると分かりやすいでしょう。

2種類の漫画は何が違う?原作が同じでも表現は変わる
2種類の漫画の大きな違いは、出版社、作画担当者、制作体制です。
ただし、それだけで作品の魅力の違いを説明しきれるわけではありません。
例えば、猫猫が何かに気づいた瞬間を描く場合を考えてみます。
原作小説なら、観察した事実や推理の過程を文章で順序立てて描写できます。
一方、漫画では、視線を向ける先、顔の角度、コマの大きさ、周囲の人物との距離などによって、猫猫の思考を読者に感じさせることができます。
この表現は、描き手によって変わり得ます。
ただし、実際にどの場面でどのような違いがあるのかは、同じエピソードを両作品で比較して初めて判断できることです。
一般的な評判だけで、片方は恋愛重視、もう片方は謎解き重視と単純に分類するのは慎重であるべきでしょう。
同じ場面でも、人物の表情をじっくり受け止めたい読者と、事件の論理を追いたい読者では、印象に残るコマが異なるかもしれません。
そこに優劣をつける必要はありません。
むしろ興味深いのは、同じ猫猫という人物であっても、描き方によって読者が感じ取る彼女の感情に幅が生まれることです。
無表情に見える顔が、本当に何も感じていない顔なのか。
それとも、感情を表に出さないよう意識している顔なのか。
その解釈の違いこそが、複数の漫画版を読む面白さにつながるのではないでしょうか。
『薬屋のひとりごと』の原作小説とアニメは誰が作っている?
『薬屋のひとりごと』は小説として始まり、漫画化を経て、2023年10月にはテレビアニメ化されました。
ここでも原作と映像化作品の制作担当を区別することが重要です。
原作小説の著者は日向夏、イラストはしのとうこ
原作小説『薬屋のひとりごと』は、2012年10月31日にRayBooksから書籍化されました。
この版は第1部にあたる後宮編を収録した全1巻です。
その後、2014年8月29日からヒーロー文庫で刊行が始まり、物語はさらに展開していきました。
ヒーロー文庫版の著者は日向夏さん、イラストを担当するのはしのとうこさんです。
そして、しのとうこさんは漫画版のキャラクター原案としてもクレジットされています。
つまり、しのとうこさんは単なる漫画の作画担当者ではなく、小説のビジュアル面を担う人物です。
文章から生まれた登場人物に視覚的な姿を与える仕事は、作品が読者へ伝わる過程において重要な役割を持っています。
猫猫や壬氏という名前を聞いたとき、多くの読者は人物の姿も同時に思い浮かべるでしょう。
しかし物語の最初の形は、あくまで文章でした。
僕はこの順序を意識すると、キャラクターという存在がいかに多くの表現を重ねて育っていくのかを感じます。
日向夏さんが言葉で描いた人物が、しのとうこさんのイラストを経て、漫画家やアニメ制作陣によってさらに別の表情を獲得していく。
その過程には、同じ人物を異なる方法で理解しようとする創作者たちの仕事があるのです。
テレビアニメは漫画版ではなく原作小説をもとに制作されている
テレビアニメ『薬屋のひとりごと』の原作としてクレジットされているのも、日向夏さんによる小説です。
アニメ第1期は2023年10月から2024年3月に放送され、第2期は2025年1月から放送されました。
2025年5月30日のMANTANWEBのインタビューでは、シリーズ累計発行部数が4000万部以上に達したことも紹介されています。
小説投稿サイトで始まった物語が、出版社の異なる2種類の漫画、さらにテレビアニメへと展開したことになります。
ただし、アニメの原作が小説であることと、映像表現に漫画版との類似点が見られることは、別の問題です。
漫画版で見慣れた構図や印象に近い演出があったとしても、それだけで特定の漫画版を直接の原作としていると判断することはできません。
アニメには独自の脚本、絵コンテ、演出、作画などの制作工程があります。
そのため、作者を整理する際には、原作者とアニメ制作スタッフを同じ意味で扱わないことが大切です。
この違いを意識すると、同じエピソードであっても、小説、漫画、アニメでは表現するための手段が異なることに気づきます。
文章で伝えられる沈黙。
コマとコマの間に生まれる沈黙。
そして映像の時間そのものによって生まれる沈黙。
どれも同じではありません。
けれど、その奥で描こうとしている猫猫や壬氏の感情は、同じ物語から出発しています。
日向夏が手がけた他の作品は?『薬屋のひとりごと』以外の代表作
日向夏さんは『薬屋のひとりごと』以外にも、小説や漫画原作を数多く手がけています。
とくに、ミステリー、ファンタジー、人物同士の駆け引きを描く作品が含まれていることは、作家としての特徴を知る手がかりになります。
代表的な作品として、次のようなタイトルが挙げられます。
- 『トネリコの王』:2013年から2014年にかけてヒーロー文庫から刊行された全2巻の小説
- 『なぞとき遺跡発掘部』:2018年から2019年に刊行された全3巻の小説
- 『神さま学校の落ちこぼれ』:2021年に漫画連載が始まり、日向夏さんが原作を担当
- 『迷探偵の条件』:2021年に小説が刊行され、漫画化もされた作品
- 『聖女に嘘は通じない』:2022年に小説の刊行が始まり、2023年から漫画連載も展開
- 『不死王の息子』:2021年に小説が刊行され、2025年5月29日からコミカライズが開始
『神さま学校の落ちこぼれ』では、漫画家の赤瓦もどむさんと組んで作品を展開しています。
2021年8月5日には、日向夏さんと赤瓦もどむさんの対談を含むインタビューも公開され、漫画の企画が生まれた経緯が紹介されました。
また、『聖女に嘘は通じない』は、フロンティアワークスのアリアンローズから原作小説が刊行され、講談社の『月刊少年マガジン』で浅見ようさんによる漫画版が連載されています。
さらに2025年には、ショートアニメ企画『ラノベアニメ』の一作として、『ファムファタル育成計画』の原作も担当しました。
これらの活動を見ると、日向夏さんは小説だけでなく、漫画やアニメに向けた原作制作にも関わっていることが分かります。
『薬屋のひとりごと』では自らが小説を書き、その作品が漫画化されていますが、『神さま学校の落ちこぼれ』のように漫画が先行する企画もあります。
つまり、同じ「原作」という肩書であっても、作品が成立する過程は必ずしも同じではありません。
僕はこの点が、日向夏さんという作家を理解するうえで重要だと考えています。
一つの形式だけにこだわるのではなく、作品ごとに異なる制作体制の中で物語を届けている。
その経験は、『薬屋のひとりごと』のように複数の媒体へ展開する作品とも、無関係ではないように思えます。
考察:『薬屋のひとりごと』が複数の作者によって描かれる意味とは?
ここからは、原作者・日向夏さんの発言や制作体制を踏まえた、僕自身の考察です。
『薬屋のひとりごと』の魅力を考えるとき、どうしても気になることがあります。
それは、物語の中で最も重要な感情ほど、はっきりと言葉にされないという点です。
猫猫は知識と観察力に優れていますが、人の感情をすべて単純に割り切れるわけではありません。
壬氏もまた、表面的な立場や言動だけでは捉えきれない人物です。
この二人の距離感には、説明しきれない微妙な部分が残されています。
そして僕は、その余白こそが、複数の漫画家による表現を成立させる大きな要素なのではないかと考えています。
猫猫は最初から「感情を表に出さない少女」として生まれたのか
まず、日向夏さんのインタビューで明かされた初期構想を思い出してみてください。
もともとの主人公は、鉱山の街に暮らす3人の子どもを持つ女性でした。
そこから10代の少女へと変更され、経験の不足を補うために薬屋という設定が加えられたのです。
表面的には、読者層や舞台に合わせた設定変更のように見えます。
しかし僕は、この変更によって、物語の根本にある緊張感も変わったのではないかと思っています。
経験豊富な大人の女性が知識を使って事件を解決する物語と、若い少女が自分の持つ知識を頼りに後宮で生き抜く物語。
同じ事件を扱っていても、主人公が背負う不安や危うさは違うはずです。
猫猫には、薬や毒についての知識があります。
けれど、後宮で権力を持つ人々の思惑を自由に変えられるわけではありません。
分かっていても、言えないことがある。
気づいていても、踏み込めない領域がある。
だからこそ彼女の沈黙は、単なる無関心としてだけでは読めないのです。
例えば、相手の言葉にすぐ答えない場面があったとしましょう。
それは、何も考えていないからなのか。
それとも、答えることで生じる結果を理解しているからなのか。
この違いは非常に大きい。
僕は猫猫の魅力を、何でも知っていることよりも、知っているからこそ簡単には動けない部分に感じます。
彼女は決して万能な名探偵ではありません。
むしろ、自分の知識が届く範囲と、届かない範囲を意識しながら生きているように見えるのです。
ねこクラゲと倉田三ノ路、異なる作画で感情の見え方はどう変わる?
複数の漫画版が存在することは、こうした猫猫の微妙な内面を考えるうえでも興味深い点です。
ここでは、特定のコマについて実証的な比較をしているわけではなく、漫画表現そのものについて考えてみたいと思います。
例えば、壬氏が猫猫に話しかけ、猫猫が返答するまでに一瞬の間が生まれる場面を想像してください。
漫画では、その間を一つの小さなコマで処理することも、複数のコマに分けて描くこともできます。
猫猫の目元を大きく描くのか。
壬氏との距離が分かる構図にするのか。
背景を描き込むのか、それとも余白を広く取るのか。
それだけで、同じ言葉の意味が少しずつ変わって見える可能性があります。
読者は、そこに迷いを感じるかもしれません。
あるいは、冷静な計算や、本人が認めたくない感情を読み取るかもしれません。
僕が興味を持つのは、人物の内面を断定することではなく、こうした表現の違いによって読み取れる感情の幅です。
同じ物語が異なる描き手によって漫画化されることは、単に絵柄を選べるという以上の意味を持つのではないでしょうか。
原作に書かれていることだけでなく、書かれていない部分へ読者がどう近づくか。
その入り口が複数存在するのです。

日向夏が語った「次のエンディング」に感じる、物語を終わらせる難しさ
そして、もう一つ見逃せないのが、日向夏さん自身が物語の終わり方について語っていることです。
2025年5月30日のMANTANWEBのインタビューで、日向夏さんは「小説家になろう」掲載版をプロットのような位置づけで扱い、書籍化に際して内容を削除・追加したり、順序を入れ替えたりしていると説明しました。
その一方で、展開の枝葉が違っても、物語の根幹は変わらないという考えも示しています。
さらに、書籍版の11巻あたりまでの展開で一度区切りをつけたつもりだったものの、物語が続いたため、新しい結末を模索していると語りました。
この発言は、作者と作品の関係を考えるうえで、とても興味深いものです。
一度は終着点を見据えていた物語が、その先へ進んでいく。
では、物語が本当に終わるとは、どういうことなのでしょうか。
事件の謎が解かれることでしょうか。
登場人物たちの立場が決着することでしょうか。
あるいは、猫猫や壬氏が自分自身の感情に向き合えるようになることでしょうか。
もちろん、日向夏さんが具体的にどのような結末を予定しているのか、インタビューだけで判断することはできません。
それでも僕は、読者が納得できる結末を模索しているという姿勢に、作品の持つ難しさが表れているように感じます。
『薬屋のひとりごと』は、事件を解決すればすべてが終わる物語ではないからです。
登場人物には、それぞれの立場があります。
本人の意思だけでは変えられない事情もあります。
誰かを大切に思うことと、その人の望みを実現できることは、必ずしも同じではありません。
ここが、どうしようもなく切ない。
壬氏が猫猫をどう思っているかという問題だけではなく、二人がそれぞれの立場を抱えたまま、何を選べるのかという問題が残っているのです。
単純な恋愛の成就だけで、すべての葛藤が解消するとは限りません。
もし仮に、誰かの幸せを願うことが、自分の本音を押し殺すことにつながるなら。
その沈黙は優しさなのか、それとも諦めなのか。
僕は、そんな問いを物語の奥に感じずにはいられません。
ただし、これは今後の展開を予測した確定情報ではなく、登場人物の関係から感じる僕自身の解釈です。
日向夏さんが模索している結末が、最終的にどのような形になるのかは分かりません。
けれど、事件の解決だけでなく、言葉にならなかった感情にも何らかの着地点が用意されることを願っています。
もう、これ以上すれ違わないでほしい。
そう思いながらも、その不器用さが彼ららしいと感じてしまう。
どうか、猫猫にも壬氏にも、本人たちが納得できる未来が訪れてほしい。
まとめ:『薬屋のひとりごと』の原作者は日向夏、漫画は2つの制作陣が担当
『薬屋のひとりごと』の原作者は、福岡県出身の小説家・日向夏さんです。
2011年10月に「小説家になろう」で連載が始まり、2012年の書籍化、2014年からのヒーロー文庫版刊行を経て、漫画やアニメへと展開しました。
制作担当者を改めて整理すると、原作小説の著者は日向夏さん、イラストはしのとうこさんです。
漫画は2種類あり、スクウェア・エニックス版ではねこクラゲさんが作画、七緒一綺さんが構成を担当しています。
一方、小学館版『薬屋のひとりごと〜猫猫の後宮謎解き手帳〜』の作画担当は倉田三ノ路さんです。
どちらも原作は日向夏さんであり、同じ物語を異なる漫画家が描いています。
僕がこの制作体制を知って感じたのは、一つの物語が、表現する人の数だけ新しい表情を持ち得るということでした。
作者が生み出した言葉が、イラストになり、漫画になり、アニメになる。
そのたびに猫猫や壬氏の感情へ近づく方法が増えていくのです。
そして、その中心にあるのは、日向夏さんが描き始めた一つの物語です。
誰が何を担当したのかを知ることは、単なる名前の確認ではありません。
僕にとっては、あの後宮の世界がどのように形作られてきたのかを知ることでもあります。
よくある質問
『薬屋のひとりごと』の本当の原作者は誰ですか?
原作者は小説家の日向夏(ひゅうがなつ)さんです。
2011年10月に小説投稿サイト「小説家になろう」で連載を開始し、2012年に書籍化されました。
漫画版の作画担当者とは別で、物語そのものを創作した人物です。
『薬屋のひとりごと』の漫画はなぜ2種類あるのですか?
同じ原作小説を、スクウェア・エニックスと小学館がそれぞれコミカライズしているためです。
スクウェア・エニックス版は、ねこクラゲさんが作画、七緒一綺さんが構成を担当しています。
小学館版『猫猫の後宮謎解き手帳』は、倉田三ノ路さんが作画を担当しています。
どちらか一方がもう一方の続編という関係ではありません。
『薬屋のひとりごと』の七緒一綺さんは何を担当していますか?
七緒一綺さんは、スクウェア・エニックス版漫画『薬屋のひとりごと』の構成担当者です。
原作は日向夏さん、作画はねこクラゲさんが担当しています。
なお、個々のコマや場面について、七緒一綺さんが具体的にどの範囲まで関与しているかは、公開されているクレジットだけでは判断できません。
『薬屋のひとりごと』の原作者・日向夏さんは顔出ししていますか?
日向夏さんは基本的に公の場で素顔を公開していません。
以前のペンネーム「うりぼう」に由来するキャラクター「うりりん」をアバターとして使用しています。
2024年には着ぐるみも制作され、イベントでファンの前に登場する際にも使用されています。
『薬屋のひとりごと』のアニメ原作はどちらの漫画ですか?
テレビアニメの原作としてクレジットされているのは、日向夏さんによる小説『薬屋のひとりごと』です。
2種類の漫画版はいずれも同じ小説を原作としたコミカライズであり、テレビアニメを特定の漫画版だけのアニメ化と捉えるのは正確ではありません。
同じ物語でありながら、描き手が変われば、人物の沈黙の重ささえ違って感じられる。
それでも、猫猫が何を見つめ、壬氏が何を言えずにいるのかという問いは、どの表現にも残り続けます。
僕はきっと、これからもその言葉にならない部分を追いかけるのでしょう。
物語の深淵を覗くというのは、そういうことなのかもしれません。
相沢 透(あいざわ・とおる)
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アニメのその先が気になった人へ。
まずアニメを見返すなら、DMM TV の14日間無料お試しが手軽です。対象作品は見放題、登録で550ポイント付き(以降は月額550円)。
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