『ふつつかな悪女』3巻では、玲琳と慧月が南領の豊穣祭へ向かい、再び身体が入れ替わる中で、祭りの妨害と邑の民による誘拐事件に巻き込まれていきます。
これまで雛宮という閉じた場所で育まれてきた二人の関係が、初めて「外の世界」にさらされる巻でもあります。玲琳の底抜けの強さと慧月の不器用な責任感、そのどちらもが今まで以上に鮮明になる一冊です。
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原作を読む
- 『ふつつかな悪女』3巻の内容は?南領の豊穣祭から物語が動き出す
- 3巻を読む前に押さえたい玲琳と慧月の関係
- 豊穣祭が慧月にとって重要なのはなぜ?
- 『ふつつかな悪女』3巻では玲琳と慧月が再び入れ替わる
- 邑の民による誘拐事件と玲琳の行動が3巻最大の見どころ
- 尭明・辰宇・玲琳の兄たちはどう動く?
- 3巻の本当の見どころは「玲琳の強さ」ではなく慧月の変化
- 玲琳の「鋼のメンタル」を笑っていいのか
- 3巻から4巻へどうつながる?豊穣祭編はここでは終わらない
- 『ふつつかな悪女』3巻はどんな人に刺さる?
- 考察|3巻は「入れ替わり」から「互いの人生を背負う物語」への転換点
- まとめ|『ふつつかな悪女』3巻は二人の関係が大きく深まる南領編
- よくある質問
『ふつつかな悪女』3巻の内容は?南領の豊穣祭から物語が動き出す
『ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』3巻は、中村颯希先生による小説シリーズの第3巻です。イラストはゆき哉先生が担当し、一迅社ノベルスから2021年11月2日に発売されました。
ISBNは9784758094122、発売時の定価は1,320円(税込)。物語の中心となるのは、雛女になった黄玲琳と朱慧月にとって初めてとなる大規模な外遊、「豊穣祭」です。
今回の開催地として選ばれるのが、南領。
そして南領は、雛宮で長く「嫌われ者」として扱われてきた朱慧月の故郷でもあります。
これが、かなり重い。
玲琳にとって外遊は純粋に心躍る出来事です。しかし慧月にとっては、自分の家や領地が雛宮の人々から直接評価される場でもあります。
しかも慧月には、玲琳たちのように後ろ盾となってくれる妃がいません。
そのため豊穣祭の準備は、単なる楽しい遠征ではなく、慧月自身が背負ってきたものを否応なく表へ引きずり出す舞台になります。
一方、玲琳はそんな慧月を当然のように支えます。
玲琳という人は、本当に「助けている」という自覚が薄いんですよね。
困っている慧月がいる。
ならば手を貸す。
彼女の中では、おそらくそれだけなのです。
けれど、自分は誰にも好かれない、自分のことなど誰も信じない、と長く思い込んできた慧月にとって、その「当然」がどれだけまぶしいのか。
3巻を読むと、二人の距離がもう単なる「身体を入れ替えた因縁の相手」ではなくなっていることが、はっきり分かってきます。
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3巻を読む前に押さえたい玲琳と慧月の関係
3巻の出来事を理解するには、まず1巻と2巻で何が起きたのかを簡単に押さえておく必要があります。
黄玲琳は、蝶のように美しいと称えられながら、極端に身体が弱い雛女です。
対する朱慧月は、周囲から嫌われ、「鼠姫」とまで呼ばれてきた雛女でした。
そんな慧月が道術を使い、二人の精神と身体を入れ替えたところから物語は始まります。
普通なら、愛されていた立場から嫌われ者の身体へ落とされた玲琳は絶望してもおかしくありません。
ところが玲琳が最初に感動したのは、慧月の身体が驚くほど健康だったことでした。
幼い頃から死と隣り合わせで生きてきた玲琳にとって、自由に動き回れる身体そのものが、何ものにも代えがたい贈り物だったのです。
この価値観の反転こそ、『ふつつかな悪女』の面白さの核でしょう。
慧月が「惨め」と考えていた身体を、玲琳は心の底から羨ましがる。
玲琳が当然のものとして受け取っていた愛情を、慧月はずっと欲していた。
二人は正反対に見えて、実は互いが持っていないものを相手が抱えている関係です。
2巻では、玲琳付きの女官・冬雪が入れ替わりの真実に気づきます。
さらに尭明や辰宇たちも、目の前にいる「玲琳」や「慧月」に感じていた違和感の正体へ近づいていきました。
玲琳たちを陥れようとする金家の女官や、その背後にいる人物をめぐる問題にも玲琳が動き、入れ替わりを中心としていた第一段階の物語はいったん大きく進展します。
つまり3巻は、秘密が少しずつ共有され始めた後の物語です。
ここが大切です。
1巻の二人は、ある意味で加害者と被害者でした。
慧月が一方的に術を使い、玲琳の人生を奪おうとしたところから始まった関係です。
それが3巻では、玲琳が慧月の領地へ行き、彼女の置かれている状況を支えるところまで変化している。
この関係の変化を思うと、もう少しだけ胸が詰まります。
許した、という一言では足りない。
玲琳は慧月を「許すべき相手」としてすら見なくなりつつあるように感じるのです。

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豊穣祭が慧月にとって重要なのはなぜ?
3巻で行われる豊穣祭の開催地は、朱慧月の故郷である南領です。
慧月にとっては、自分自身だけでなく、朱家や南領そのものが注目される大きな機会になります。
ところが慧月には後見となる妃がいません。
そのため、準備の負担も重くのしかかります。
ここで玲琳は、慧月を全力で支えます。
玲琳自身は初めての外遊を楽しみにしており、おそらく重圧よりも好奇心のほうが先に立っている。
この温度差が、二人らしくて面白いところです。
慧月は失敗できないと思っている。
玲琳は「楽しみですわ」と前へ進んでいく。
普通なら噛み合わないはずなのに、結果として玲琳の明るさが慧月を前へ押す力になっていきます。
僕はここに、玲琳というキャラクターの恐ろしいほどの強さを感じます。
彼女は空気を読まないのではありません。
空気の中にある「絶望」を、絶望として採用しない。
その選択を何度でも繰り返しているのです。
病弱だった玲琳にとって、明日が来る保証など最初からなかったのでしょう。
だからこそ今日動けること、今日見られる景色、今日誰かを助けられることを、驚くほど真っすぐに喜べる。
慧月がそんな玲琳に振り回されながら少しずつ変わっていく姿は、このシリーズの大きな魅力です。
ただし豊穣祭は、穏やかには進みません。
何者かによって儀式が妨害されます。
自分の領地で、自分が担当する重要な祭りを狙われる。
ただでさえ責任を抱え込んでいた慧月は、そこで冷静さを失ってしまいます。
そして焦りから力を暴走させ、玲琳と慧月は再び身体を入れ替えることになるのです。
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『ふつつかな悪女』3巻では玲琳と慧月が再び入れ替わる
3巻の大きな転換点となるのが、玲琳と慧月の再度の入れ替わりです。
一度目は慧月の意思によって起きました。
しかし今回は違います。
豊穣祭の妨害に追い詰められた慧月が焦り、力を暴走させた結果として起きる事故に近い入れ替わりです。
同じ現象でも、その意味はまったく違います。
最初の入れ替わりは、慧月が玲琳の人生を奪うためのものだった。
3巻の入れ替わりは、玲琳と並んで歩こうとし始めた慧月が、自分の弱さや焦りを制御できなかったことで起きてしまう。
ここには慧月の変化と、まだ変わりきれない部分の両方が表れています。
慧月は確実に成長しています。
しかし「失敗したら自分の価値がなくなる」という恐れまでは、そう簡単には消えてくれません。
周囲から嫌われ続けた人間が、一度誰かに認められたからといって、その傷がすべて治るわけではない。
むしろ初めて守りたいものができたからこそ、失敗する怖さは以前より大きくなることさえあります。
慧月の暴走は、単なる物語上のトラブルではありません。
僕には、「もう玲琳に失望されたくない」という恐怖まで混ざった行動のように思えてならないのです。
もちろん、これは作品の明示的な説明ではなく筆者の読みです。
けれど、玲琳の存在が慧月にとって以前より大きなものになったからこそ、南領での失敗がこれほど重くなる。
そう考えると、再度の入れ替わりにも別の痛みが見えてきます。
一方で玲琳は、また身体が入れ替わったからといって、そこで立ち止まる人物ではありません。
ここから物語はさらに予想外の方向へ転がっていきます。
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邑の民による誘拐事件と玲琳の行動が3巻最大の見どころ
混乱の最中、慧月を攫おうとする邑の民が現れます。
ただし身体は玲琳と慧月で入れ替わっています。
そこへ玲琳の兄まで関わり、事態はさらに複雑になります。
そして何より驚かされるのが、玲琳自身の行動です。
彼女は兄とともに、自ら捕虜となります。
「捕まってしまう」のではありません。
状況を見たうえで、あえて敵側へ入っていく。
ここに玲琳という人物の本質が凝縮されています。
彼女は無鉄砲に見える瞬間があります。
けれど、ただ危険を理解していないわけではない。
死に近い場所で生きてきたからこそ、普通の人とは危険に対する物差しそのものが違うのです。
だから読者からすると「いや、そこまでしなくても」と思う場面でも、玲琳本人は驚くほど自然に進んでいく。
この危うさが、彼女の魅力であると同時に、周囲を苦しめる部分でもあります。
3巻では、それがかなり大きく表面化します。
玲琳本人にとっては合理的な行動でも、玲琳を大切に思っている人から見ればたまったものではありません。
自分の命を惜しまない優しさは、ときに残された側へ刃のように刺さります。
僕は『ふつつかな悪女』を単なる「最強メンタル令嬢もの」として読めない理由が、ここにあると思っています。
玲琳の強さは美しい。
でも、少し怖い。
彼女は死を恐れていないというより、死に慣れすぎているように見える瞬間があるからです。

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尭明・辰宇・玲琳の兄たちはどう動く?
玲琳たちが危険な状況へ入っていく一方、周囲の人物たちも当然ながら黙ってはいません。
一迅社による3巻の紹介では、身動きが取れない尭明、独自に玲琳たちを追う辰宇、そして過保護な玲琳の兄たちがそれぞれ大きく動くことが示されています。
この「全員が別方向から動いている」という構図が3巻の面白さです。
雛宮の中では、どうしても玲琳と慧月を中心とする女同士の関係や宮廷内の駆け引きが物語の大部分を占めていました。
しかし南領へ舞台が移ったことで、人間関係の配置そのものが大きく広がります。
尭明には尭明の立場があります。
動きたくても、立場によって自由に動けない。
辰宇は辰宇で、別のやり方から追跡していく。
玲琳の兄たちは、かわいい妹が危険に巻き込まれたとなれば冷静でいられるはずもありません。
そして問題なのは、当の玲琳本人が誰よりも平然としていることです。
この温度差がすごい。
周囲は必死。
玲琳は捕虜になっても、たぶん目の前の未知の出来事へ興味を向けてしまう。
その構造だけでも面白いのですが、笑っているうちに少しずつ違う感情が浮かんできます。
これだけ多くの人が玲琳を守ろうとするのは、彼女がそれだけ愛されているからです。
けれど玲琳自身は、自分の命が他人にとってそれほど重いものだという感覚を、完全には共有できていないようにも見える。
だから彼女を愛する人ほど苦しい。
ここは3巻だけで終わらず、後の巻にもつながっていく玲琳という人物の重要な部分だと僕は感じています。
3巻の本当の見どころは「玲琳の強さ」ではなく慧月の変化
表面的に見れば、『ふつつかな悪女』3巻の見どころは非常に分かりやすいです。
豊穣祭。
再び起こる入れ替わり。
邑の民による誘拐事件。
玲琳の兄たちの暴走。
尭明や辰宇の動き。
事件だけ追ってもかなり賑やかな巻です。
けれど、個人的にもっと注目したいのは慧月です。
綺麗な友情の物語に見えますが、僕は二人の関係をそんなに簡単な言葉で片づけたくありません。
慧月はもともと、玲琳からすべてを奪おうとした人です。
玲琳の美貌。
玲琳の立場。
玲琳が受けている愛情。
それらを欲しがった。
それほどまでに、自分自身であることが苦しかったのでしょう。
しかし3巻では、その慧月が自分の領地で責任を背負い、自分自身の名前で物事を成し遂げようとしています。
これはかなり大きな変化です。
玲琳になりたかった少女が、朱慧月として立とうとしている。
そこを見逃したくない。
そして、そのすぐ隣に玲琳がいるのがまた苦しいんですよね。
かつて人生を奪おうとした相手が、自分を信じて支えてくれている。
玲琳はおそらく、慧月に恩を売ろうとしているわけではありません。
恩返しも謝罪も求めない。
ただ「慧月様が頑張っていらっしゃるから」という理由だけで手伝ってしまう。
それって、優しいというだけでは済まない。
許された側にとって、返す場所のない優しさほど重いものはありません。
慧月が豊穣祭を成功させたいと焦る背景には、南領や朱家への責任だけではなく、そんな玲琳の信頼に応えたい気持ちも少なからずあったのではないか。
僕にはそう見えます。
だからこそ、儀式を妨害されたときに力が暴走してしまう。
大丈夫だと思いたい。
玲琳の隣に立てる自分でいたい。
でも、失敗する。
その瞬間、慧月の中で積み上げてきたものが崩れそうになる。
視線をそらすような瞬間。
言葉を飲み込む間。
真正面から感謝を示せず、別の言葉で玲琳を押し返してしまう不器用さ。
慧月という人物を見ていると、強い言葉ほど、その裏側に怯えた本音が隠れているように感じます。
「助けてほしい」と言えなかった人なんですよね。
だから玲琳は、頼まれる前に助けてしまう。
もう、しんどい。
玲琳からすれば何でもないことなのに、慧月にとっては人生の前提を書き換えるほど大きな出来事になっている。
この二人を見ていると、人は説得されて変わるのではなく、「自分を見捨てない人が本当にいる」と身体で知ったときに初めて変わり始めるのかもしれない、と思わされます。
玲琳の「鋼のメンタル」を笑っていいのか
本シリーズを象徴する魅力として、玲琳の強靱な精神力があります。
身体を入れ替えられ、嫌われ者として扱われても、健康な身体を手に入れたことを喜ぶ。
普通なら悲劇になる場面を、玲琳が別の価値観からひっくり返してしまう。
その爽快さが『ふつつかな悪女』の大きな魅力です。
ただ、3巻あたりまで読むと、玲琳の強さを単純に「前向きで格好いい」とだけ受け止めるのは少し難しくなってきます。
なぜ玲琳は、ここまで死を恐れないのでしょうか。
なぜ自分が危険な場所へ行くことへの抵抗が、これほど少ないのでしょうか。
答えの一端は、玲琳が長く虚弱な身体で生きてきたことにあるでしょう。
彼女にとって死は、遠くにある抽象的な恐怖ではなかった。
いつでも隣にいた。
だから玲琳は、「死ぬかもしれないから何もしない」より「動けるうちにやりたいことをする」を選びやすい。
それは確かに強さです。
でも、ただの美談にしてはいけない気がします。
普通なら恐ろしくて踏み出せない場面で玲琳が進めてしまうのは、勇敢だからだけではない。
自分の命を「未来まで続くもの」として信じ切る経験が少なかったからではないでしょうか。
彼女自身は笑っている。
楽しそうにしている。
だから周囲も、そして読者も安心してしまう。
でも、その笑顔の奥には、「今日死んでも不思議ではない」と何度も覚悟してきた少女の記憶が積み重なっている。
そう思った途端、あの豪快さが少し違って見えてきます。
3巻から4巻へどうつながる?豊穣祭編はここでは終わらない
3巻を読む前に知っておきたいのは、南領で始まる一連の物語が3巻だけですべて完結するわけではない点です。
3巻では豊穣祭の妨害、再度の入れ替わり、邑の民との事件が大きく動きます。
そして続く4巻では、邑を襲った疫病が一段落した後、頭領の雲嵐が凶刃に倒れるという出来事へ発展していきます。
入れ替わったまま邑の民に攫われた玲琳は、雲嵐が死の淵をさまよう姿を前に激しく動揺します。
さらに豊穣祭で慧月へ向けられていた嫌がらせや祭りの妨害、伝染病まで含め、背後にある大きな悪意が徐々に形を現していきます。
つまり3巻は、シリーズ第二幕の「始まり」にあたる巻です。
ここで起こる事件は単独のトラブルではありません。
慧月の故郷。
玲琳の命に対する感覚。
南領の人々。
周囲の人間が玲琳をどう思っているのか。
そして玲琳と慧月が互いをどう位置づけるようになったのか。
それらが後の物語へつながっていきます。
だから3巻は、派手な事件巻でありながら、実はかなり感情の種を蒔いている一冊です。
あとから振り返ると、「ここで既に始まっていたんだな」と思うものがいくつもあります。
『ふつつかな悪女』3巻はどんな人に刺さる?
3巻は、とくに玲琳と慧月の関係性が好きな読者には重要な巻です。
1巻では衝突する関係だった二人が、2巻を経て、3巻ではかなり違う距離感へ変化しています。
事件そのもののテンポも良く、雛宮だけでは見えなかった人物たちの一面も広がります。
とくに注目したいポイントを整理すると、次の通りです。
- 初めての外遊となる南領の豊穣祭
- 慧月が自分の故郷で背負う責任
- 玲琳による全力の慧月サポート
- 儀式妨害による慧月の道術暴走
- 玲琳と慧月の再度の身体入れ替わり
- 邑の民が慧月を攫おうとする事件
- 玲琳が兄とともに自ら捕虜になる展開
- 動けない尭明と、独自に追跡する辰宇
- 玲琳を心配する兄たちの過保護ぶり
- 玲琳の「死への距離感」が少しずつ見え始める点
ストーリーだけを追えば、かなり賑やかな巻です。
しかし個人的には、事件が起きるたびに「玲琳ならどうするか」だけでなく、「その玲琳を見た慧月がどう変わるか」を意識すると、3巻の印象はかなり深くなると思います。
玲琳は最初から強い。
一方、慧月は強くなろうとしている。
その違いが、とても美しいのです。
考察|3巻は「入れ替わり」から「互いの人生を背負う物語」への転換点
ここからは私見です。
僕は3巻を、このシリーズが「入れ替わり逆転もの」からもう一段深い物語へ変わる巻だと捉えています。
1巻で面白かったのは価値観の逆転でした。
愛され姫の身体を奪えば幸せになれると思った慧月。
嫌われ者の身体へ落とされたのに、健康を得て歓喜する玲琳。
この食い違いが圧倒的に面白かった。
けれど、それだけなら巧妙な設定を使った痛快劇で終わることもできたはずです。
3巻はそこから踏み込みます。
玲琳は慧月の身体だけではなく、慧月が背負ってきた土地や人間関係の中へ入っていく。
南領へ赴き、慧月がなぜそこまで焦るのかを間近で見る。
一方の慧月も、玲琳をただ羨むのではなく、玲琳がなぜあれほど命を惜しまないのかを少しずつ知ることになります。
互いの身体を知った二人が、次に互いの人生を知り始める。
ここが3巻の本当の転換だと思うのです。
そして皮肉なのは、身体を交換するという異常な出来事があったからこそ、二人が普通の友人以上に相手の痛みへ近づけてしまったことでしょう。
慧月は玲琳の身体で、虚弱さを知った。
玲琳は慧月の身体で、嫌われ者として扱われる世界を知った。
普通なら「分かったつもり」にしかなれない他人の痛みを、この二人は否応なく身体で経験しています。
それでも完全には分かり合えない。
だからこそ面白い。
玲琳には慧月の孤独を完全には理解できない。
慧月には玲琳の死生観を完全には理解できない。
でも理解できないから離れるのではなく、分からないまま隣にいる。
僕はそこが、この作品の一番優しいところだと思っています。
綺麗な友情に見えます。
けれど本当は、もっと重い。
慧月にとって玲琳は、自分が最も傷つけた相手でありながら、初めて自分を真正面から肯定してくれた人でもある。
好きになるほど罪悪感も増える。
大切になるほど失うことが怖くなる。
だから慧月は、玲琳を守りたいと願えば願うほど、自分が最初に彼女へしたことから逃げられなくなるのではないでしょうか。
そして玲琳は、そんな慧月の罪悪感を理解しているのかいないのか、いつもの笑顔で隣に立ち続ける。
許すとも言わない。
責めるとも言わない。
ただ、一緒にいる。
それって場合によっては、「許す」よりずっと深い救いなんですよね。
慧月がいつか本当に自分自身を好きになれるとしたら、それは玲琳になれたからではありません。
玲琳が好きになった「朱慧月」を、自分自身でも受け入れられたときなのだと思います。
3巻では、その未来へ向かう小さな一歩が確かに見えます。
まだ不器用で。
すぐ焦って。
術まで暴走させてしまう。
それでも以前の慧月とは違う。
誰かから奪うことで幸せになろうとしていた少女が、自分の場所を守ろうとして必死になっている。
そこまで来たんだよね。
玲琳が慧月の人生へ差し込んだ光は、慧月を別人にしたわけではありません。
慧月が慧月のまま生きていく勇気を、少しずつ取り戻させている。
どうかこの子が、いつか自分自身を嫌わずに済むようになってほしい。
3巻を読むたび、僕はそんなことを思います。
まとめ|『ふつつかな悪女』3巻は二人の関係が大きく深まる南領編
『ふつつかな悪女』3巻では、雛女になって初めての外遊として、慧月の故郷・南領で豊穣祭が開催されます。
後見となる妃がいない慧月は準備に追われ、玲琳は彼女を支えながら初めての外遊を楽しみにします。
しかし儀式が何者かに妨害され、焦った慧月の力が暴走。
玲琳と慧月は再び身体を入れ替えることになります。
さらに慧月を狙う邑の民が現れ、玲琳は兄とともに自ら捕虜になるという大胆な行動へ出ます。
身動きの取れない尭明、独自に追跡する辰宇、妹を案じて暴走する玲琳の兄たちまで加わり、物語は雛宮の外へ一気に広がっていきます。
ただ、3巻でいちばん見てほしいのは事件の派手さだけではありません。
玲琳になろうとした慧月が、「朱慧月」として責任を背負い始めること。
そして玲琳が、その慧月を何のためらいもなく支えること。
二人が身体だけでなく、少しずつ互いの人生まで背負い始める巻なのだと思います。
入れ替わりという奇妙な縁から始まった二人が、ここまで来た。
その事実だけで、少し胸が熱くなります。
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よくある質問
『ふつつかな悪女』3巻は何編ですか?
慧月の故郷である南領を舞台に、豊穣祭をめぐる事件が描かれる巻です。南領で始まった一連の出来事は4巻にも続き、シリーズ第二幕の中心となっていきます。
3巻でも玲琳と慧月は入れ替わりますか?
はい。豊穣祭の儀式を妨害された慧月が焦り、力を暴走させたことで、玲琳と慧月は再び身体が入れ替わります。
『ふつつかな悪女』3巻はいつ発売されましたか?
一迅社ノベルスから2021年11月2日に発売されました。著者は中村颯希先生、イラストはゆき哉先生で、ISBNは9784758094122です。



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