カラオケ行こ! 映画の聖地は大阪・ミナミ・銀座？実際の撮影場所をエリア別に解説

あの独特な関西ノリと、青春のどこか切なさがじわっと染み出す──映画『カラオケ行こ！』を観終えた後、ふと「ここって本当に大阪？」と感じた人、きっと多いはずです。

大阪・ミナミを彷彿とさせる“ミナミ銀座”という舞台。しかし、物語の空気感を絶妙に映し出していたあの街並みは、意外にも大阪ではありませんでした。

本記事では、『カラオケ行こ！』のロケ地となった場所を、撮影エリアごとに詳しく解説。現地のリアルな空気まで感じられるよう、演出の意図とともに読み解いていきます。

なぜ甲府の歓楽街が“大阪のミナミ”として機能したのか？──その演出の妙を知れば、もう一度映画を観直したくなるはずです。

映画『カラオケ行こ！』のロケ地はどこ？本当に大阪なのか

「ミナミ銀座」の正体は山梨・甲府の南銀座

映画『カラオケ行こ！』は、物語の舞台として“大阪のミナミ”を思わせる「ミナミ銀座」という街が登場します。関西弁の応酬と下町のざわめき、ネオンの中で響くカラオケの歌声。視覚的にも音響的にも、大阪の街を再現しているかのような臨場感がありました。

ところがこの“ミナミ銀座”、実際にロケが行われたのは大阪ではなく、山梨県甲府市なんです。甲府駅南側の歓楽街「南銀座通り」がその正体。名前までそっくりなこのエリア、実は地元では昔から「ナンギン（南銀）」の愛称で親しまれている場所で、意外にも“大阪感”に富んだ景観を持っているんです。

象徴的なのは、アーチ型の入り口に掲げられた「ミナミ銀座」の赤い看板。映画用の装飾かと思いきや、実在する南銀座のゲートそのもの。通りには昭和レトロな薬局や雑居ビル、スナックが立ち並び、まるで時間が止まったかのような空気感。映画では、ここが聡実くんと狂児が“出会う”場所となり、物語の重要な導線を形成しています。

大阪ではなく甲府が選ばれた理由──それは、ロケーションが持つ“匿名性と情緒”にあります。大阪という具体性を出しすぎないことで、誰もが「どこかにありそう」と思える距離感を保ちつつ、街の密度や雑多さがリアルに胸に迫ってくる。この“ちょっとズレたリアリティ”が、物語のどこか儚げな空気を支えていたんですね。

私自身、初見時は「なんて大阪らしい街だろう」と信じて疑いませんでした。でも、ロケ地が甲府だと知ってから観返すと、そこにあるのは“地方都市特有の静けさ”であり、“どこでもない場所”に浮かぶ人間模様だったんです。この違和感のなさこそが、演出の妙。「大阪っぽいけど大阪じゃない」、この曖昧さが映画の空気をじわっと滲ませていたんです。

舞台とロケ地がズレることで生まれた“映画的リアリティ”

『カラオケ行こ！』は、リアルな関西弁や言動が飛び交う一方で、街並みだけはどこか“物語の中の大阪”として描かれています。大阪という実在の都市ではなく、“大阪らしさ”という記号を借りた抽象的な舞台。それを実現できたのが、まさに甲府の南銀座だったんです。

このギャップがどう作用するか──それは、観客の想像力を自由にする効果にあります。「この街って本当にどこなの？」と感じたとき、私たちは目の前の物語により集中し、キャラクターの表情やセリフに引き込まれていく。場所の特定があいまいだからこそ、人物の心情が際立つ。そんな映画ならではの演出意図を、甲府の街が完璧に受け止めてくれていたんです。

“舞台は大阪、撮影は甲府”──このズレがもたらしたのは、いわば映画の中だけに存在する「架空のミナミ」。そしてそれが、どこか懐かしく、温かく、そしてちょっと寂しい……そんな物語の感触をより強くしていた。ロケ地が持つ力を、改めて感じさせられました。

きっと今、『カラオケ行こ！』を観返したら、最初には気づけなかった“街そのものの演技”に心を奪われるはず。聡実と狂児のやりとりを包み込んでいた、あの不思議な街の正体を、もう一度あなたの目で確かめてみてください。

エリア別・聖地巡礼ガイド｜甲府市内の主なロケ地

アーチ型の入り口と裏路地がリアルすぎる「桜町通り・裏春日通り」

映画『カラオケ行こ！』の中で何度も登場する、印象的なアーチ型の入り口。そこに掲げられた「ミナミ銀座」の文字に、観客は“ああ、ここが舞台なのか”と物語の入口を感じ取ります。実はこのゲート、甲府市にある「南銀座通り」＝桜町通りと裏春日通りに本当に存在するものなんです。

この通りは、アーチ看板だけでなく、薬局、スナック、古びたビルが並ぶリアルな歓楽街。映画の中でも、狂児がタバコを吸って立っていた角や、聡実くんと初めて言葉を交わす小道など、複数の重要なシーンがここで撮影されています。目立った改変もなく、ほぼ“そのままの景色”が今も残されているのが驚きです。

個人的に感動したのは、裏春日通りの路地裏。ほんの2〜3メートルの狭い通りに、映画で観たままの神社がぽつんと建っていて──あの空気感、まさにスクリーンから抜け出してきたような感覚。現地を歩いてみると、カメラのフレームに収まっていた風景が、実際にはもっと生活感にあふれていて、その“現実と虚構の重なり”にグッときます。

映画の中では、ここが“大阪っぽさ”を演出する象徴的な場所となり、非日常と日常のはざまを彷徨うような心地よさがありました。その秘密は、まさにこの「甲府のリアルな裏通り」にあったんだと、歩きながら確信しました。

聖地巡礼として訪れるなら、桜町通りのアーチ前で一枚写真を撮るのは定番ですが、それ以上におすすめなのは裏春日通りを一人で静かに歩いてみること。映画の空気を追体験しながら、聡実と狂児が最初に出会った“あの瞬間”を、自分の時間に置き換えてみてください。

スナック“かつ子”のモデル店「ラウンジはる美」

物語の中盤で狂児と聡実が繰り返し通うスナック“かつ子”。映画ではこの店がカラオケ練習の拠点となり、2人の関係が少しずつ変化していく場でもあります。そしてこのスナックのモデルとなったのが、甲府市の「ラウンジはる美」。実在する店で、エンドロールにも実名でクレジットされているという“ガチのロケ地”です。

店構えはごく普通のスナック。でも、映画で観たあのドアの形や看板、照明の色合いが現地でもそのまま確認できたときには、鳥肌が立ちました。ちなみに店内の撮影が行われたかどうかは不明ですが、外観だけでも十分に“あの空間”を感じ取れます。

ロケ地としてのラウンジはる美の魅力は、昭和のスナック文化が色濃く残る町並みに溶け込んでいること。映画の中で狂児がポツリと漏らす「カラオケが好きなんや」というセリフが、現地の空気の中でふと浮かび上がってきて、作品世界への没入感がぐっと深まります。

ちなみにこの場所は、先ほどの裏春日通りから徒歩数分圏内にあります。巡礼ルートとしては、アーチ→裏通り→スナックという順番で歩くと、映画の時間軸と重なるような気がして、より濃密な体験になります。

ただし、スナックは現役営業中の店舗。巡礼の際はマナーを守って、外観のみの見学にとどめましょう。お店に迷惑をかけず、物語の余韻を大切に味わうことが、ファンとしての“粋”だと思うのです。

その他の撮影場所｜千葉・神奈川・東京のロケ地一覧

カラオケ大会や練習シーンは千葉・市原市で撮影

映画『カラオケ行こ！』において、狂児と聡実が向き合う場所のひとつ──それがカラオケボックスです。拳銃のように渡されたマイク、命を懸けた「歌」のレッスン。そのスリリングで滑稽な、でもどこか切ないシーンの数々は、千葉県市原市にある「カラオケアーサー市原店」で撮影されました。

店内はごく一般的な郊外型カラオケ店。しかし、映画では照明と画角、そして音響演出によって、まるで格闘技のリングのような張りつめた空気が生み出されていました。実際の店舗を訪れると、「あ、ここであの絶叫が響いたのか……」という不思議な感覚に包まれます。

施設自体は広く、駐車場も完備されており、ロケ地巡礼には便利な場所。ただ、昼間に訪れるとその“平凡さ”にちょっと驚くかもしれません。でも、それこそが映画の面白さ。何気ない日常空間が、物語の装置として機能する──それをリアルに体感できるのがこの場所なんです。

狂児の「歌え、聡実！」というシーンは、まさにこの空間で生まれた奇跡のような瞬間。あの強引で不器用な愛情表現が、平凡なカラオケルームの中で光を放っていたんですよね。

合唱コンクールの舞台となった幕張国際研修センター

物語後半、聡実くんがクラスメートたちと合唱コンクールに臨む場面。ここは『カラオケ行こ！』の中でも特に「音」が物語を牽引するシーンであり、感情の決壊点でもあります。この重要な場面が撮影されたのが、千葉市美浜区にある「幕張国際研修センター」。

実際に訪れると、その広々としたホールと静謐なロビーの雰囲気に驚かされます。映画では観客のざわめきや照明の演出で華やかに見えた会場も、普段は研修や講演が行われる施設。その“普段の顔”を知ると、映画における非日常の演出力が一層浮き彫りになります。

この場所が担った役割は、単なる発表会のステージではありません。狂児と聡実の関係性がクライマックスを迎える場所であり、2人の物語が“歌”というかたちで一瞬だけ重なる奇跡の場だったんです。

訪問時には、実際にステージへ上がることはできませんが、ホールの外観だけでも十分に“あの音の余韻”を感じ取れるはず。ロケ地としての重みは、観客の心に静かに、でも確かに刻まれています。

学校やファミレスの撮影は神奈川・東京が中心

聡実くんが通う学校のシーンは、神奈川県横浜市都筑区の「横浜市立早渕中学校」で撮影されました。学校ロケというと“どこでもよさそう”に思えるかもしれませんが、この学校の校舎、廊下、階段の雰囲気が、彼の孤独とまっすぐさをじんわりと浮かび上がらせる装置になっていたんですよね。

特に印象的なのは、狂児が学校へ訪れたときの“場違いな存在感”。無骨なヤクザと、無防備な中学生たちの対比は、空間の違和感＝人間関係のギャップを象徴していました。現地を訪れると、学校という場が持つ独特の緊張感が、映画と重なって見えてくるはずです。

また、映画の後半で登場するファミレスシーン。聡実が友人たちと語り合うこのシーンは、東京都八王子市の「ガスト宇津木店」で撮影されたという情報もあります。ファミレスという“誰でも行ける場所”が、聡実の世界の広がりと心の揺れを象徴しているのが印象的でした。

どこにでもあるようで、実はどこにもない。映画『カラオケ行こ！』のロケ地たちは、そんな不思議な空気をまとっています。聖地巡礼というより、“物語の呼吸を探しに行く旅”──そんな感覚で、ぜひ足を運んでみてください。

なぜ“地方都市”が大阪の代替に？映像演出の意図を読む

記号的な「大阪感」ではなく、情緒を優先した街並み選び

『カラオケ行こ！』が放つ空気感には、「大阪ミナミの喧騒」とは少し違う、どこか懐かしく、でも少し寂しげな情緒が宿っています。観客の多くは「これは大阪の話だ」と思いながら観ているけれど、実際に映っているのは甲府の裏路地──このギャップが、実は作品全体の情緒に深く関わっているんです。

たとえば、大阪・道頓堀や心斎橋のような記号的な街並みをそのまま映してしまったら、どうでしょう？リアルではあるけれど、その“わかりやすさ”が、かえってキャラクターの繊細な感情や孤独感を塗りつぶしてしまう。映画が求めていたのは「リアルな場所」ではなく、「心情に寄り添う空間」だったように思います。

甲府の南銀座──そのアーチ、路地、雑多な店並び。そこには確かに“ミナミ風”の雰囲気が漂っていますが、決して大阪ではない。その「似ているけれど違う」感覚が、観客の心に余白を残してくれる。キャラクターたちの言葉やまなざしに、自然と意識が向くようになる。

舞台とロケ地の微妙な“ズレ”が、物語の中で「リアルとフィクションの境界」を曖昧にし、観客自身の記憶や情景と重なっていく──そんな効果が、この映像演出の選択にはあるんじゃないかと思うんです。

つまり、単に大阪の代わりに甲府を使ったという話ではなく、あえて“ミナミっぽさ”を崩した舞台選び。この演出意図に気づいた瞬間、物語がぐっと“観客の中に入ってくる”。それこそが、『カラオケ行こ！』の世界観の核心だったんじゃないでしょうか。

「知らない街」だからこそ観客の想像が広がる

もうひとつ重要なのが、“観客の記憶に引っかからない街”を選ぶことで、物語への没入感が格段に高まるという点。私たちは知っている街を見れば、その背景や喧騒、現実の情報を無意識に重ねてしまいます。でも、知らない街──例えば甲府の南銀座を舞台にされると、逆に想像が自由になる。

「この街ってどこ？」「行ってみたいな」──そう思わせることで、物語の背景が観客一人ひとりの記憶の中に投影されていく。まるで自分の人生の一場面のように、『カラオケ行こ！』のシーンがすっと心に滑り込んでくるんです。

実際に甲府の街を歩いてみると、その狭さや静けさ、ちょっと古びた感じが、映画の“どこにもない感”を完璧に再現していたことに驚かされます。そして、それがまた「自分の知らないはずの景色なのに、どこか懐かしい」と感じさせてくれるんですよね。

この“懐かしさの演出”は、リアルな舞台よりも、作り手が「観客の感情に響く空間」を見つけ出した結果。だからこそ、ロケ地が大阪でなくても、物語はちゃんと“関西のにおい”をまといながら進んでいけたのだと思います。

『カラオケ行こ！』を観終えた後、私たちはきっと「もう一度あの街を歩いてみたい」と感じる。でもそれは、実在する甲府の裏通りだけじゃない。自分の中にある、誰にも知られていない“心の中の街”を、無意識に探しているのかもしれません。

聖地巡礼に行くならここに注意｜アクセスと巡り方ガイド

甲府市内は徒歩で回れる範囲に名所が集中

映画『カラオケ行こ！』の聖地巡礼、と聞くと「大阪かな？」「あちこち移動が大変そう」と思う方もいるかもしれません。でも実は、主要なロケ地の多くは山梨県甲府市の中心部にぎゅっと集まっているため、日帰りでも十分楽しめる巡礼プランが可能なんです。

たとえば、物語の舞台である“ミナミ銀座”のモデルとなった「桜町通り」や「裏春日通り」は、甲府駅南口から徒歩約10〜15分程度。その通り沿いには、「サロン・レイ前のアーチ」「スナック“かつ子”のモデル店」「神社のある裏路地」など、映画の印象的なカットがそのまま残っているスポットが密集しています。

さらに、仲見世通りの商店街や屋上シーンが撮影された尚古園も、中心部からアクセス可能。巡礼のために無理な移動やレンタカーを用意する必要はなく、徒歩＋公共交通機関で十分カバーできるのが甲府ロケ地巡りの魅力です。

特におすすめなのは、「午前中に駅南口から出発し、アーチ→裏路地→スナック前→仲見世→尚古園」の順に歩くルート。映画の時間軸と感情の流れに沿って街を歩くことで、物語の空気が肌に染み込んでくるような感覚を味わえます。

「地方都市のロケ地だからこそ、濃密に体験できる」──それがこの巡礼の魅力のひとつ。映画の中で感じた静けさやざわめきが、そのまま現地で自分の体験になるって、なかなかできることじゃないですよね。

巡礼マナーと“昼の時間帯”の選び方

さて、ここで大事なのが聖地巡礼におけるマナー。今回のロケ地である甲府の南銀座エリアは、現在も地元の人々が生活し、営業を営むリアルな歓楽街。とくに夜はナイトスポットとして営業している店も多いため、巡礼は昼間の時間帯に行くのがベストです。

早朝〜夕方であれば、人通りも落ち着いていて写真撮影などもしやすいですし、映画のシーンを静かに思い出しながら歩けるのも魅力。とはいえ、どこも私有地や店舗の敷地であることを忘れずに、節度ある行動を心がけましょう。

特に「ラウンジはる美」などの現役営業中の店前では、立ち止まって大人数での撮影や騒がしい行動は避けるのが基本。ファンの熱意は尊いけれど、だからこそ「作品の舞台になった街に感謝の気持ちを持つ」ことが、一番のファンマナーだと思うんです。

また、裏春日通りや神社のある小道は住宅地でもあるため、静かに歩く、スマホの音量を下げるなどの配慮も大切。映画の中で感じた静謐な空気を、現地でも壊さないように──それが、映画を本当に“自分の中に残す”方法だと思っています。

聖地巡礼という行動が、映画をもう一度体験することだとしたら、その体験は現地の風景だけじゃなく、自分の歩き方、振る舞いそのものにも現れるはず。映画と街に対するリスペクトを込めて、丁寧に一歩一歩、物語の残り香を感じてください。

『カラオケ行こ！』ロケ地から見える映画の魅力再発見

物語に漂う“空気”はロケ地でこそ体感できる

映画『カラオケ行こ！』を観たあとに感じた、あの「なんとも言えない空気感」。笑えるのに泣きそうで、緊張感があるのにどこか緩やかで、登場人物の温度がじわじわと染み込んでくる。──その感覚の正体って、実はロケ地そのものが醸し出していたものだったのかもしれません。

スクリーンを通して見る甲府の街並み。そこには、どこか懐かしくて、自分の知っている“どこかの街”に似ているような気配がありました。だけどその一方で、「行ったことがないのに、知ってる」と感じさせてくる不思議な親しさ。それはたぶん、物語の感情と街の佇まいがぴたりと呼吸を合わせていたからなんですよね。

映画の感情が街の表情ににじみ出ていて、街の静けさがキャラクターの心に奥行きを与える。そんな“相互作用”が映像に宿っていたことを、実際に現地に足を運んでみて初めて実感しました。喧騒がない、観光地っぽくもない。だからこそ、あの物語が息づいていた──そう思えるロケ地ばかりでした。

特に、裏春日通りの狭い路地に足を踏み入れたときのあの感覚は忘れられません。誰もいないはずなのに、どこかから「狂児の声」が聞こえてきそうな気がする。そんな、スクリーン越しの“残響”を体で感じる場所が、この映画にはたくさんあるんです。

映画の魅力って、ストーリーや演技だけじゃない。風景が語る言葉、空気が伝える気持ち。そういうものを、観客の感覚のなかにそっと届けてくれる作品だったんだなと、改めて感じさせてくれました。

もう一度映画を観るとき、見え方がまるで変わる

ロケ地を巡ったあとで『カラオケ行こ！』を観返すと、不思議なほどに映像の中の温度が変わって見えるんです。あの建物、あの看板、あの階段──それぞれが「どこかの風景」から「自分が立った場所」へと変わる。その瞬間、物語はぐっと身近になり、キャラクターの言葉がまるで自分に向けられているかのように響いてきます。

これは、ただの“ロケ地巡り”ではなく、映画との関係性を自分の中に作り直す体験。スクリーンの向こうで完結していた物語が、観客一人ひとりの現実の記憶の中に接続される。その感覚は、作品に対する“愛し方”をまるごと塗り替えてしまうほど、深くてやさしいものでした。

しかも『カラオケ行こ！』は、元々が“普通の場所”を舞台にした物語。だからこそ、現地を訪れることで得られる「映像では見えなかったもの」が本当にたくさんあります。街の匂い、人の気配、空気の重さ──それらすべてが、物語にもう一層の深みを与えてくれるんです。

「知ってるのに知らなかった映画」から、「もう一度観たくてたまらない映画」へ。聖地を歩いたあと、作品がまるで別物のように胸に迫ってきたその瞬間。この作品に出会えてよかったと、心から思えました。

だからこそ、今から観る人にも、もう一度観ようとしている人にも、こう伝えたい──“その街に立ったとき、映画が初めてあなたのものになる”と。