『アポカリプスホテル』と竹本泉──“滅びの中の微笑み”を継ぐ者たち

滅びの物語は、なぜこんなにも私たちの心を惹きつけるのでしょうか。

2025年春アニメ『アポカリプスホテル』は、まさに「終末の後の日常」を描く作品。そこにキャラクター原案として名を連ねるのが、漫画家・竹本泉氏です。

彼女の名を聞いて胸が熱くなる人、きっと多いはず──猫、宇宙人、恐竜、そしてほのぼのとした笑いと優しさ。そんな竹本作品のエッセンスは、このアニメにどんなかたちで息づいているのでしょうか。

この記事では、竹本泉作品と『アポカリプスホテル』の関係を、作風の影響や共通点を軸に紐解きながら、あなたと一緒に味わい直していきます。

『アポカリプスホテル』基本情報と世界観の魅力

滅びの銀座、ホテルのロボットたちが織りなす物語

『アポカリプスホテル』は、2025年4月8日より日本テレビ系列で放送開始されたオリジナルTVアニメです。制作はCygamesPictures、企画はサイバーエージェントが手がけています。物語の舞台は、人類が姿を消して久しい未来の東京・銀座。高級ホテル「銀河楼」では、ホテリエロボットのヤチヨをはじめとするロボットたちが、オーナーの帰還と人類の再来を信じて、100年以上も変わらず業務を続けています。そんな中、100年ぶりの宿泊客として現れたのは、地球外生命体でした。

この設定だけでも、私は心を掴まれました。人類が消えた後も、ロボットたちは変わらずホテルの業務を続けている。そこには、彼らなりの使命感や忠誠心、そして希望が感じられます。特に、主人公のヤチヨが「支配人代理の代理」として、仲間たちと共にホテルを守り続ける姿には胸を打たれます。

また、地球外生命体が宿泊客として現れるという展開も興味深いです。彼らの目的は宿泊か、侵略か、それとも……？　この謎が物語をさらに引き立てています。

『アポカリプスホテル』は、SFとヒューマンドラマが融合した作品であり、滅びの中にも希望や温かさを感じさせてくれます。私は、この作品を通じて、ロボットたちの健気さや人間味に触れ、心が温かくなりました。

100年後の宿泊客──地球外生命体がもたらすもの

100年ぶりの宿泊客として現れた地球外生命体の登場は、物語に新たな展開をもたらします。彼らの目的は明らかにされていませんが、ロボットたちは変わらずおもてなしの心で接します。

このシーンでは、ロボットたちのプロフェッショナリズムと、未知の存在に対する寛容さが描かれています。特に、ヤチヨの対応には感銘を受けました。彼女は、相手が誰であれ、宿泊客として敬意を持って接する姿勢を貫いています。

また、地球外生命体との交流を通じて、ロボットたちが新たな感情や価値観を学んでいく様子も描かれています。これは、異文化交流や共生の大切さを示唆しているように感じました。

『アポカリプスホテル』は、単なるSF作品ではなく、人間性や共感、そして希望を描いた作品です。私は、この作品を通じて、異なる存在との共存や理解の大切さを改めて考えさせられました。

竹本泉の作風──「ほのぼのSF」の系譜

猫と宇宙人と恐竜と、そして少女たち

竹本泉さんの名前を聞くと、真っ先に頭に浮かぶのは、猫耳の女の子や宇宙人、ちょっととぼけた恐竜たち──そう、あの柔らかい線と、クスリと笑える会話劇です。1959年生まれの漫画家で、1981年に『なかよし』でデビュー。代表作には『ねこめ〜わく』『てけてけマイハート』『がーでん姉妹』など、SF要素と日常のほのぼの感を掛け合わせた作品が多くあります。

竹本作品の魅力は、なんといっても「SFのはずなのに肩の力が抜ける」この独特の空気。宇宙人が地球に来ても、恐竜が部屋にいても、そこに流れるのはどこか牧歌的で、ときにシュールな日常です。私はこの感覚がたまらなく好きで、読んでいると、心の奥の柔らかい部分をそっと撫でられるような気持ちになります。

特に特徴的なのは、人間以外のキャラクターたちの“人間味”。彼らは決して完璧な機械や異星人ではなく、むしろ人間よりも人間臭い、ちょっとしたドジや思いやり、ユーモアを持っています。この「非人間キャラの人間味」が、竹本作品の根っこにあるんです。

『アポカリプスホテル』でも、この竹本イズムは色濃く感じられます。舞台は人類が消えた後の銀座、登場するのはホテリエロボットたち。でも彼らは冷たい機械ではなく、感情を持ち、仲間を思いやり、宿泊客に尽くそうとする。まさに竹本作品で描かれてきた「異種間の優しさ」の延長線上にあると私は感じています。

「エロとグロのない吾妻ひでお」という異名の真意

竹本泉さんは、しばしば「エロとグロのない吾妻ひでお」と評されることがあります。確かに、吾妻ひでおのようなSFユーモア、異種混在、脱力感は通じるものがありますが、決定的に違うのはその“温度”です。

吾妻作品には時に冷笑や虚無感が漂いますが、竹本作品は常に根底に優しさがある。日常の中に忍び込んだ非日常を、笑い飛ばしたり、愛でたり、時には見なかったふりをしたり──その姿勢が、私はたまらなく愛おしいんです。

だからこそ、『アポカリプスホテル』という作品に竹本泉が関わっていることは、単なるキャラクターデザイン以上の意味を持つと考えています。それは、「滅び」を描きながらも、決して絶望に浸らない、ちょっと不思議で、でも確かに温かい世界の提供。

滅びの中に、そっと差し出される微笑み。それが竹本泉という作家の最大の魅力であり、『アポカリプスホテル』が持つ独自性の一つだと私は思います。

『アポカリプスホテル』に見る竹本泉の影響

非人間キャラクターに宿る、人間以上の人間味

『アポカリプスホテル』の最大の魅力は、なんといってもロボットたちの「人間らしさ」です。銀河楼で働くホテリエたちは、誰ひとり人間ではありません。なのに、彼らはあまりにも人間らしく、むしろ人間以上に健気で優しい存在として描かれています。

私はここに、竹本泉作品が持つ「非人間キャラクターの人間味」の影響を感じずにはいられません。猫耳の女の子や宇宙人、恐竜──彼女が描くのは、種族の違いを超えて共感できる“おかしみ”や“やさしさ”を持つキャラクターたち。その視点が、このアニメにも深く流れ込んでいるように思うんです。

特に印象的なのは、彼らの会話のテンポや間の取り方。ちょっとズレたやりとりや、思わずクスッと笑えるやさしい掛け合いは、明らかに竹本イズムを感じさせます。ロボットでありながら、マニュアルにはない感情をにじませる──このアンバランスさが、観る者の胸を打つんです。

私は、このロボットたちを見ていると、「機械」というより、むしろ“無垢な子どもたち”のように思えてなりません。彼らの純粋さは、世界が滅んでもなお失われず、見ている私たちにさえ、世界をもう一度信じてみようと思わせる力を持っている。

終末世界の日常描写──静けさの中の優しさ

もう一つ、竹本泉の影響を強く感じるのは、終末世界を舞台にしながらも、そこに漂うのは決して絶望ではない、という点です。『アポカリプスホテル』は、人類が消えた後の物語。でも、銀河楼の中に流れる空気は、静けさと優しさに満ちています。

私はこの空気感を「ほのぼの終末SF」と呼びたい。滅びを背景にしながらも、キャラクターたちが毎日を淡々と、でも楽しそうに生きている──その姿が、不思議と胸を温めるんです。竹本作品でよく見る、なんでもない日常のなかに非日常が混じり込む感覚。それが、この作品の核でもある。

普通なら、滅亡後の物語と聞けば、暗く重たい展開を予想するでしょう。でも、この作品は違う。ロボットたちは、笑い、悩み、時に失敗しながらも前に進む。そこにあるのは、絶望ではなく、ひそやかな希望。私はここに、竹本泉という作家の哲学が見える気がします。

滅びの中の日常、非人間の中の人間味。この二つが融合することで、『アポカリプスホテル』は唯一無二の物語世界を築いている。そう感じずにはいられませんでした。

スピンオフ漫画『ぷすぷす』──竹本泉流アレンジの妙

アニメ本編では描かれない視点とユーモア

『アポカリプスホテル』の世界は、アニメだけでは完結しません。実は、竹本泉さん自身が手がけるスピンオフコミカライズ『アポカリプスホテルぷすぷす』が、竹書房のウェブコミックサイト「ストーリアダッシュ」で連載中なのです。

私はこのニュースを知ったとき、思わず「やっぱり！」と声が出ました。なぜなら、アニメ本編が持つ緻密で静謐な雰囲気に対し、竹本泉が描くときっともっと遊び心やユーモアが前面に出るはずだと確信していたからです。

実際、スピンオフではロボットたちの日常のドタバタや、アニメでは見られない細かな裏話、ちょっとした小ネタが散りばめられています。竹本作品を読み慣れた人なら、「ああ、これは竹本泉じゃないと描けないな」と思う瞬間が随所に光っているはず。

私は特に、彼女特有の“肩の力を抜いた笑い”が大好きです。深刻な状況のはずなのに、気がつけばクスリと笑ってしまう。この感覚は、アニメ本編のしっとりした空気と絶妙に補完し合い、作品世界をより立体的にしています。

「滅び」の重さを軽やかに──笑いがもたらす癒し

終末世界を描く作品は、しばしばシリアスになりがちです。でも、竹本泉が関わると、そこには必ず“軽やかさ”が宿る。『ぷすぷす』は、まさにその好例です。

私が思うに、笑いは決して「現実逃避」ではなく、「現実を柔らかく包むための魔法」なんです。竹本作品に流れる穏やかなユーモアは、滅びの重さを薄めるものではなく、それを抱えたうえで日々を生き抜くキャラクターたちの強さを教えてくれます。

スピンオフの中で描かれるのは、小さな失敗やちょっとしたすれ違い、ささいな誤解。でも、それを笑いに変え、日常を続けていくロボットたちの姿は、私たちの生き方そのものを投影しているように思えるんです。

私は『ぷすぷす』を読みながら、「竹本泉がいてくれてよかった」と心から感じました。彼女の手で描かれることで、この終末世界は、単なる暗黒ではなく、優しさと笑いが混じり合った唯一無二の空間として成立しているのです。

まとめ──“滅びの中の微笑み”を継ぐ者たち

『アポカリプスホテル』は、ただの終末SFではありません。人類が消えた未来、残されたロボットたちは命令に従うだけの存在ではなく、そこで確かに「生きて」います。そして彼らが織りなす物語は、悲劇ではなく、希望と優しさに満ちた日常なのです。

この「滅びの中の微笑み」を支えているのが、漫画家・竹本泉の存在です。彼女の作風には、異種間のやり取りを通して見えてくる優しさや、ほんの少し肩の力が抜けるようなユーモアがあり、それがアニメ本編にも、スピンオフの『ぷすぷす』にも脈々と流れ込んでいます。

私はこの記事を書きながら、気づかされました。滅亡や喪失を描く物語は多くあれど、それを軽やかに、けれど決して軽薄ではなく描ける作家はそう多くない。竹本泉は、その稀有な一人なのだと。

『アポカリプスホテル』は、滅びを越えて「優しさ」を届ける物語。視聴者が笑い、泣き、癒されるのは、キャラクターたちがまるで私たち自身のように、少し不器用で、でも一生懸命だからでしょう。

この作品に触れたあなたもきっと、こう思うはずです──「もう一度、この世界を覗きに行きたい」と。