『薬屋のひとりごと』原作小説7巻は、猫猫の医官付き官女への転身、砂欧の巫女をめぐる事件、そして壬氏の求婚が描かれる重要な一冊です。
なかでも壬氏が猫猫への想いを明確に言葉にする場面は、二人の関係を大きく変える転機となります。しかし、僕が本当に胸を締め付けられたのは、その言葉を簡単には受け止められない猫猫の事情でした。
※この記事では、日向夏さんによるヒーロー文庫版の原作小説7巻を扱います。事件の真相や壬氏の求婚を含むネタバレがあります。
『薬屋のひとりごと』7巻はどんな話?ストーリーの全体像
原作小説7巻は、猫猫が新たな職場で人間関係を築きながら、隣国・砂欧の政治的な思惑が絡む事件に巻き込まれていく物語です。
そして終盤では、壬氏が猫猫との将来について、これまで以上にはっきりした意思を示します。
原作小説7巻の基本情報
『薬屋のひとりごと』7巻は、日向夏さんが執筆し、しのとうこさんがイラストを担当するライトノベルです。
ヒーロー文庫の公式書誌情報では、発売日は2018年2月28日とされています。
今回の参考資料である読書メーターには、344ページ、登録数4,991、感想・レビュー1,018件という情報が掲載されています。これらの登録数やレビュー件数は変動する数値です。
なお、同じ『薬屋のひとりごと』7巻でも、ねこクラゲさんが作画を担当する漫画版とは収録内容が異なります。
スクウェア・エニックスの漫画版7巻は、壬氏を狙った事件の真相や青い薔薇の難題を扱う巻です。
この記事で解説するのは、猫猫が医官付き官女となる原作小説7巻の物語になります。
7巻の大きな流れは3つ
物語の中心となる出来事を整理すると、次のようになります。
- 猫猫が官女試験に合格し、姚や燕燕とともに医局で働き始める。
- 砂欧から来た巫女や愛凛をめぐる事件が発生し、猫猫が隠された事情を解き明かしていく。
- 壬氏が猫猫を妻にする意思を明言し、二人の関係が新たな段階へ進む。
この3つは独立した出来事のようにも見えます。
けれども、読み進めるほど、ある共通点が浮かび上がってきます。
それは、他人が決めた役割の中で生きる人間が、自分自身の意思をどこまで貫けるのかという問題です。
猫猫は望んだわけではない仕事に就き、巫女は政治的な事情によって人生を縛られ、壬氏は自らの立場ゆえに恋愛すら自由に選べません。
立場は違っても、三者はそれぞれ、自分の人生を自分で決めることの難しさに向き合っています。
僕には、この構造こそが7巻全体を貫く重要なテーマに思えました。
アニメ第2期からのつながり
2025年7月4日に放送されたアニメ第48話「はじまり」では、子の一族をめぐる事件が終結した後、猫猫と壬氏が互いの傷を案じながら、楼蘭が残したものについて考える姿が描かれました。
原作小説7巻は、そうした大きな出来事を経た後の物語です。
猫猫が新たな職場へ移る一方、過去の事件で生まれた感情や人間関係まで消えたわけではありません。
とくに子翠として猫猫と関わった楼蘭の存在は、後に砂欧の巫女をめぐる事件を考えるうえでも重要になってきます。
表面的には新章の始まりですが、登場人物たちが抱えるものは前巻までと地続きなのです。
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猫猫はなぜ医官付き官女に?姚と燕燕との関係を解説
7巻序盤の大きな変化は、猫猫が医官付き官女として働き始めることです。
里樹妃をめぐる一件が落ち着いたところへ、高順が新たな話を持ち込みます。
それが官女試験の受験でした。
官女試験を受けた猫猫の新たな立場
猫猫はもともと薬や毒に強い関心を持ち、豊富な知識と観察力によって数々の事件を解決してきました。
しかし、知識があることと、宮廷の正式な組織で働けることは別問題です。
官女試験は、猫猫がこれまで培ってきた能力を、宮廷の制度の中で活用するための転機となります。
本人が積極的に望んだというより、周囲の意向によって半ば強制的に受験することになった点が、いかにも猫猫らしいところです。
試験では医学に関する専門知識が強みとなり、猫猫は合格を果たします。
その後、医官付き官女として働くようになり、宮廷の医療に以前より深く関わっていきます。
この変化を、単純な出世と見ることもできるでしょう。
けれども僕は、少し違う印象を受けました。
猫猫にとって重要なのは高い地位ではなく、薬や医学に触れられる環境です。
一方、宮廷にとって重要なのは、彼女の能力を必要な場所で使えるようにすること。
つまり、猫猫個人の興味と、権力者たちの都合が偶然一致したようにも見えるのです。
その一致がいつまで続くのか。
新しい仕事に就いたことは喜ばしい変化でありながら、同時に猫猫が宮廷の事情から離れにくくなったことも意味しています。
新しい同僚・姚と燕燕の登場
医局で猫猫と関わるようになるのが、姚と燕燕という二人の官女です。
姚は負けず嫌いで、猫猫に対して対抗心を見せる人物として登場します。
最初から親しげな関係が築かれるわけではありません。
猫猫の能力や置かれた立場に納得できず、姚が反発する場面もあります。
一方、燕燕は姚に強い愛着を持ち、彼女を大切にする人物です。
この二人が加わったことで、猫猫の日常はこれまでとは違った賑やかさを帯び始めます。
興味深いのは、姚の反発が必ずしも単なる意地悪として描かれていないことです。
猫猫には優れた医学知識がありますが、周囲から見れば、彼女は特別な後ろ盾を持っているようにも映ります。
能力を認めることと、その待遇に納得することは、必ずしも同じではありません。
姚の感情には、競争心だけでなく、自分も正当に評価されたいという切実さが含まれているように感じます。
だからこそ、猫猫と姚が少しずつ互いを理解していく過程には、単なる仲直り以上の意味があります。
相手の能力を認めても、自分の悔しさまで消えるわけではない。
そんな複雑な感情を描いているところに、この新しい人間関係の魅力があります。
羅門と羅漢が見せる異なる愛情
医官付き官女となった猫猫は、養父である羅門と仕事をする機会も増えていきます。
羅門は豊かな知識を持つ人物で、猫猫にとって医学を学ぶうえで欠かせない存在です。
その一方で、実父である羅漢も、娘の動向を気にかけています。
羅門の愛情は、知識を伝え、猫猫が自分で判断できるよう支える方向に表れます。
対して羅漢の愛情は、距離の取り方が独特で、ときに猫猫を困らせるものです。
どちらも猫猫を大切に思っているとしても、その伝え方はまったく異なります。
ここは笑える場面も多いのですが、少し考え込んでしまいました。
愛情の強さと、相手が望む距離を理解できるかどうかは別なのだと。
そして、この問題は後半で描かれる壬氏と猫猫の関係にもつながっていきます。

砂欧の巫女事件の真相は?愛凛・白娘々・ジャズグルの関係
7巻中盤から後半にかけての中心となる事件は、隣国・砂欧からやってきた巫女をめぐる騒動です。
医学的な謎解きに外交問題が絡み、物語は一気に複雑になります。
砂欧から来た巫女と愛凛
砂欧は、猫猫たちの暮らす国と外交関係を持つ隣国です。
そこでは王を中心とする勢力と、巫女を中心とする勢力が対立しています。
巫女は宗教的な権威を持つ存在であり、その立場は政治とも深く結び付いています。
さらに、砂欧から来た愛凛も重要人物として関わります。
愛凛はかつて特使として登場した人物で、砂欧を離れて後宮に入ったという背景を持っています。
巫女と愛凛は単なる同郷の人物ではなく、過去から続くつながりがあります。
その関係を理解しないまま事件を追うと、誰が誰を守ろうとしているのか、少し分かりにくく感じるかもしれません。
しかし、この複雑さは無意味ではありません。
登場人物たちが国家や組織に属している以上、個人的な感情だけでは行動できないことを示しているからです。
巫女をめぐる事件と隠された秘密
事件では、巫女が毒によって命を狙われたように見える状況が生まれます。
愛凛にも疑いが向けられるなか、猫猫は毒の性質や出来事の前後関係に注目します。
重要なのは、毒を使ったという事実だけではありません。
どの時点で毒が仕込まれたのか。
誰が何を知っていたのか。
そして、事件によって利益を得るのは誰なのか。
猫猫はこうした点を手がかりに、表面上の筋書きとは異なる事情を探っていきます。
やがて、巫女の身体と身分に関する重大な秘密が浮かび上がります。
女性として扱われてきた巫女が、実際には男性として生まれ、政治的な事情によってその役割を担わされていたという事実です。
その秘密は、巫女本人の意思だけで作られたものではありません。
周囲の権力争いや制度に利用された結果として、本人の人生そのものが変えられてしまったことがうかがえます。
この真相を知ったとき、僕は事件の見え方が変わりました。
毒を使った人物を突き止めれば、それで解決する話ではなかったのです。
むしろ問われているのは、そこまで追い込まれた人間を誰が救えるのかということでした。
白娘々と姶良が示すもう一つの危険
巫女事件と並行して注目したいのが、白娘々と姶良の存在です。
白娘々は、それまでの事件でも不穏な影を落としてきた人物です。
一方、姶良は愛凛とともに登場した砂欧の特使であり、両者は同じ国に関わりながら異なる政治的立場にあります。
7巻では、白娘々をめぐる動きと砂欧内部の権力争いとのつながりが、より意識されるようになります。
ここで大切なのは、砂欧から来た人々をひとまとめに考えないことです。
同じ国の出身でも、守ろうとするものも、属する勢力も違います。
その違いによって、ある人物にとっての正義が、別の人物にとっては脅威になる。
宮廷ミステリーだった物語が、国家間の駆け引きを描く政治劇へと広がっていくのを感じます。
ジャズグルの絵は何を意味する?
ジャズグルも、7巻で印象を残す人物の一人です。
巫女に関わる少女であり、言葉による意思疎通には制約があります。
彼女は絵を通じて、周囲に何かを伝えようとします。
物語の中で示される不可解な絵は、単なる子どもの落書きとして片付けられないものです。
未来を思わせる内容を含みながら、その意味は7巻だけで完全に説明されるわけではありません。
ここには、事件が一区切りついても、砂欧をめぐる問題が終わったとは限らないという不穏さがあります。
僕が興味を引かれたのは、ジャズグルが言葉ではなく絵を残すという点でした。
巫女も愛凛も、政治的な理由から本当の事情を自由に話せません。
その一方で、ジャズグルは別の理由から、言葉を使った説明が難しい。
立場も事情も異なる人々が、同じように「伝えたいことを伝えられない」状態にあるのです。
彼女の絵は、単なる次巻への伏線ではなく、言葉にできない人々の存在を象徴しているようにも感じました。

壬氏は7巻で猫猫にプロポーズする?「妻にする」宣言の意味
原作小説7巻の終盤では、壬氏が猫猫に対して、妻にするという意思をはっきりと伝えます。
ただし、この宣言によって二人の結婚が決まるわけではありません。
むしろ、これまで曖昧なままにされてきた問題が、避けられない形で表面化した場面だと考えています。
猫猫が求めたのは曖昧ではない言葉
壬氏が猫猫に特別な好意を抱いていることは、それまでの物語でも繰り返し示されてきました。
しかし、壬氏の言動は時として回りくどく、猫猫が自分から感情を読み取るよう求められる関係でもありました。
7巻では、そうした曖昧さをめぐって二人が言い合いになります。
猫猫は、相手に何かを伝えたいのなら、誤解させないよう明確に言葉にするべきだという趣旨の反論をします。
そして壬氏は、その言葉に応えるように、自分の意思を明言するのです。
「妻にする」。
それまで遠回しに伝えられてきた感情が、逃げ道の少ない言葉へと変わります。
読者の立場からすれば、待ち望んでいた展開でしょう。
けれども、僕には単純に祝福するだけでは終われない場面でした。
猫猫にとって、壬氏が好意を抱いていることを知るのと、その好意によって自分の将来が変わることは、まったく違う問題だからです。
なぜ猫猫は簡単に喜べないのか
壬氏は宮廷の中でも非常に特殊な立場にいる人物です。
そのため、彼の結婚は本人と相手だけの問題では済みません。
宮廷内の序列や権力関係、そして玉葉后や東宮を取り巻く事情とも無関係ではいられないのです。
一方、猫猫は人間関係や立場によって生じる危険に敏感です。
宮廷で働き、さまざまな事件を見てきた彼女だからこそ、権力者の意向が個人の人生を変えてしまうことを理解しています。
壬氏の好意が本物であっても、それだけで周囲の問題が消えるわけではありません。
むしろ、彼の気持ちが強いほど、猫猫はその先を考えなければならなくなります。
僕は、ここに二人の感情のすれ違いがあると感じました。
壬氏は、自分がどれほど真剣なのかを伝えたい。
猫猫は、その真剣さが現実にどんな結果をもたらすのかを考えている。
どちらかが不誠実なのではありません。
二人は同じ未来を見ようとしながら、見えている危険の種類が違うのです。
だからこそ、求婚の場面には喜びと不安が同時に存在しています。
名前を呼ぶという小さな変化
この場面で僕が注目したいのは、壬氏が猫猫の名前をはっきり呼び、直接自分の意思を伝えることです。
身分の高い人物が、相手をどう呼ぶか。
一見すると些細なことですが、この作品では呼び方ひとつにも人物間の距離が表れます。
壬氏は猫猫に対して、自分の気持ちを察してもらうだけではなく、言葉の受け手として正面から向き合おうとします。
もちろん、それによって猫猫の不安が解消されるわけではありません。
しかし、少なくとも壬氏は、これまでの曖昧な態度から一歩踏み出しています。
ここで重要なのは、猫猫がその場で恋愛感情を明確に告白したわけではないという点です。
壬氏の意思がはっきりした一方で、猫猫が何を選ぶのかは、なお簡単には見通せません。
言葉にした側と、言葉を受け取った側。
二人の間に生まれた新しい緊張感が、7巻の終盤を強く印象付けています。

『薬屋のひとりごと』7巻の読みどころを深掘り考察|本当に描かれたものは何か
7巻の魅力は、官女としての新生活、砂欧の巫女事件、壬氏の求婚という異なる物語が、一つの大きな問いへとつながっていくところにあります。
その問いとは、自分の意思を他人に伝えることと、その結果に責任を持つことは同じなのか、というものです。
ここからは、僕自身の解釈として考えてみたいと思います。
巫女の事件は「救われた」という美談だけでは終わらない
砂欧の巫女をめぐる事件は、猫猫の働きによって破滅的な結末を回避する方向へ進みます。
しかし、それを単純な救出劇として受け取ってよいのか、僕には疑問が残りました。
巫女は、自分自身の人生を自由に選べる立場ではありませんでした。
政治的な事情によって与えられた役割を背負い、秘密を守りながら生きてきた人物です。
その秘密が危険になったとき、命を絶つことさえ選択肢に入れてしまう。
そこには、個人の弱さという言葉では片付けられない絶望があります。
猫猫は、そんな巫女が死によって問題を終わらせようとすることに強く反発します。
この怒りを考えるうえで、思い出さずにはいられないのが楼蘭の存在です。
アニメ第2期でも描かれたように、楼蘭は自ら大きな罪を背負い、命を懸けて子どもたちを守ろうとしました。
猫猫にとって、誰かが死によって物事を終わらせようとする姿は、決して遠い出来事ではないのです。
もちろん、巫女と楼蘭の境遇は異なります。
けれども、どちらも自分の命を代償として、他人や組織の問題に決着をつけようとする構造を持っています。
僕には、猫猫の怒りが単なる医療者としての倫理観だけから生まれたものとは思えません。
もっと個人的な、過去の喪失と結び付いた感情が含まれているのではないでしょうか。
誰かがいなくなった後に、残された人間が何を抱えるのか。
猫猫は、その重さを以前より深く理解しているように感じます。
姚が抱えた傷こそ、事件のもう一つの結末
7巻では、巫女事件に巻き込まれた姚も大きな影響を受けます。
姚は毒に関わる騒動で危険な目に遭い、体調を崩してしまいます。
さらに、事件の表向きの処理によって、不名誉な立場にも置かれてしまいます。
僕がこの展開で重く感じたのは、姚が事件の全体像を十分に知らされないことです。
読者や猫猫が把握している事情と、姚本人が理解できる事情には差があります。
一部の真相を知る人々は、全体の利益や外交上の事情を考えて行動します。
一方、事情を知らない姚は、自分の身に起きたことを、限られた情報の中で受け止めなければなりません。
ここには、ミステリー作品では見過ごされがちな問題があります。
事件が解決しても、巻き込まれた人間の感情まで整理されるとは限らないのです。
猫猫の推理によって真相に近づく読者は、謎が解けたことに満足できます。
しかし、姚にとっては、自分がなぜ苦しむことになったのかさえ、十分に説明されない部分が残ります。
それでも彼女は、自分の置かれた状況を理解しようとします。
この姿は、序盤で猫猫に対抗心を燃やしていた少女とは少し違って見えます。
自分より優秀な相手を意識することと、世界の不公平さを知ること。
姚はこの巻で、別の種類の現実に直面したのではないでしょうか。
だからこそ、猫猫と姚の関係は単なる友情の成立では終わりません。
同じ場所で働き、同じ事件に関わっても、背負わされるものは違う。
その違いを知ったうえで、二人がどんな関係を築いていくのか。
僕はそこにも、壬氏の求婚に負けないほどの重みを感じています。
壬氏の求婚は、愛の告白であると同時に責任の宣言
綺麗な恋愛の進展に見えますが、壬氏の言葉を単なる愛の告白として受け取ると、大切なものを見落としてしまう気がします。
壬氏は猫猫に結婚の意思を伝えるだけでなく、彼女が恐れるような状況にはしないという覚悟も示しています。
ここで彼が向き合っているのは、猫猫の感情だけではありません。
自分が持つ立場によって、彼女の人生を左右しかねないという現実です。
僕は、この場面を巫女の事件と対比して読むと、別の意味が見えてくると思っています。
巫女は、背負わされた役割から逃れるため、自分の命を終わらせることまで考えました。
一方、壬氏は、自分の立場が生む問題を引き受けたうえで、猫猫と生きる道を探そうとします。
どちらも、権力によって人生を制限されている人物です。
しかし、困難な現実に対して選ぼうとする方向は異なります。
もちろん、壬氏の宣言が実現可能かどうかは別問題です。
気持ちが強いからといって、宮廷の複雑な事情を簡単に変えられるとは限りません。
それでも彼は、曖昧な態度のままではいられなくなった。
僕には、そこが重要に思えます。
そして猫猫の側にも、少しずつ変化が起きています。
これまでなら、壬氏の真意を理解していても、面倒なことには関わらないよう距離を置く選択ができたかもしれません。
ところが7巻では、猫猫自身が曖昧な意思表示に反発し、明確な言葉を求める形になります。
本人がどこまで意識していたかは分かりません。
けれども、その反発が結果的に壬氏の決意を引き出したのです。
この点に、二人の関係の変化が表れているのではないでしょうか。
言葉にできなかった人々と、言葉にした壬氏
7巻を読み返すうえで、僕がとくに注目したいのは「言葉を持てる人」と「言葉を持てない人」の違いです。
巫女は自身の秘密を自由に明かせません。
愛凛も、政治的な立場によって本音を隠さなければならない部分があります。
ジャズグルは絵によって何かを伝えようとします。
姚は、自分の身に起きたことに納得しきれなくても、知り得る情報が限られています。
そして猫猫も、壬氏に対する感情を率直な言葉として表すことには慎重です。
こうして並べると、7巻は実に多くの人物が、言いたいことを言えない物語だと気づきます。
そんな巻の終盤で、壬氏だけが驚くほど明確に、自分の望みを宣言するのです。
これは偶然の配置でしょうか。
僕には、そうは思えません。
前半から積み重ねられてきた沈黙や隠し事が、最後の求婚をいっそう強く響かせているように感じます。
しかも皮肉なことに、壬氏がはっきり言葉にしても、問題は解決しません。
むしろ、猫猫が避けてきた現実を、これまで以上に明確にしてしまいます。
言葉は人を救うこともあれば、相手に選択を迫ることもある。
そう考えると、あの求婚はただ甘いだけの場面ではないのです。
猫猫がその言葉をどう受け止めたのか。
壬氏は本当に、彼女が不安に思う未来を変えられるのか。
僕は、二人が互いを想う気持ちだけでなく、その想いを守るために何を選ぶのかを見届けたいと思いました。
7巻の読者レビューから見える評価
読書メーターに寄せられた感想を見ると、7巻では大きく二つの点が注目されています。
一つは、新しい職場や姚・燕燕との関係、砂欧の事件を中心とした物語の広がりです。
もう一つは、終盤で壬氏が猫猫への意思を明言する展開です。
読者の感想には、姚や燕燕を最初は苦手に感じながらも、物語が進むにつれて魅力的な人物として受け止めるようになったという意見があります。
また、羅門の知性や猫猫との関係を高く評価する声も見られます。
一方で、砂欧の人物関係や巫女事件は複雑で、途中で整理が難しくなったという感想もあります。
壬氏と猫猫の交流が中盤まで少なく、物足りなさを感じた読者もいるようです。
そのため、7巻は恋愛だけを期待して読むと、やや遠回りに感じる可能性があります。
ただ、僕はこの遠回りに意味があると思っています。
猫猫が宮廷の中でどのような立場に置かれ、誰と信頼関係を築き、どんな事情を抱えた人々に接しているのか。
それらを知った後だからこそ、壬氏の求婚が持つ重さも理解しやすくなります。
求婚の場面だけを切り取ると、長く続いた恋愛の進展として受け取れるでしょう。
しかし7巻全体を通して読むと、それが一人の女性の人生を左右しかねない決断でもあることが分かります。
8巻以降につながる伏線と今後の見通し
7巻では、砂欧の事件が一定の区切りを迎える一方で、政治的な問題がすべて解決したわけではありません。
姶良や白娘々をめぐる動き、ジャズグルが残した絵など、気になる要素が残されています。
また、壬氏と猫猫の関係についても、求婚が成立したからといって結婚が決まったわけではありません。
壬氏の立場と猫猫の不安という、簡単には解決できない問題が残っています。
そのため、8巻以降を読むうえでは、壬氏が自分の意思をどのような行動につなげるのかが重要になってくると考えられます。
同時に、猫猫がその行動をどう評価するのかも見逃せません。
猫猫は、相手がどれほど立派なことを言っても、実際の事情や結果を確かめようとする人物です。
彼女が必要としているのは、情熱的な言葉だけではないのでしょう。
自分自身が納得できる未来を選べること。
壬氏が本当に猫猫を大切に思うなら、その選択する自由をどう守るのかが問われるはずです。
ここにこそ、7巻以降の二人の関係を考えるうえでの核心があるように思います。
まとめ|7巻は猫猫と壬氏の関係が変わり始める転換点
『薬屋のひとりごと』原作小説7巻は、猫猫が医官付き官女として働き始め、新しい仲間と出会いながら、砂欧の巫女をめぐる複雑な事件に向き合う物語です。
官女試験、姚と燕燕の登場、巫女の秘密、愛凛と白娘々の関係、ジャズグルが残す謎。
これらの出来事によって、物語の舞台は後宮の日常から外交や権力争いへと、さらに広がっていきます。
そして終盤では、壬氏が猫猫を妻にする意思を明確に示します。
これは確かに大きな進展ですが、二人の問題がすべて解決したわけではありません。
むしろ、その言葉によって、今まで見ないふりができていた現実と向き合う必要が生まれました。
僕が7巻で最も心に残ったのは、事件の真相そのものでも、求婚という出来事だけでもありません。
誰かを大切に思っていても、その人を思いどおりに幸せにできるとは限らない。
その難しさを、猫猫も壬氏も、それぞれの立場から突き付けられていることです。
どうか、相手の人生を奪うことなく、互いの気持ちを大切にできる未来があってほしい。
7巻を読み終えた後、僕にはそんな願いが残りました。
よくある質問
『薬屋のひとりごと』7巻は何の話ですか?
原作小説7巻は、猫猫が官女試験に合格して医官付き官女となり、姚や燕燕という新しい同僚と働き始める物語です。
砂欧の巫女や愛凛をめぐる事件が大きな軸となり、終盤では壬氏が猫猫に求婚の意思を明確に伝えます。
壬氏と猫猫は7巻で結婚しますか?
7巻で壬氏は猫猫を妻にする意思を明言しますが、この時点で二人が結婚するわけではありません。
壬氏の特殊な立場や宮廷内の政治的事情など、解決すべき問題が残っています。
『薬屋のひとりごと』小説7巻と漫画7巻は同じ内容ですか?
同じ内容ではありません。
ヒーロー文庫版の原作小説7巻は、猫猫の医官付き官女への転身、砂欧の巫女事件、壬氏の求婚が中心です。
一方、ねこクラゲさんによる漫画版7巻は、壬氏を狙った事件の真相や青い薔薇をめぐるエピソードなどを収録しています。
どちらの7巻について調べているのかを区別すると、物語の内容を正確に把握できます。
相沢 透(あいざわ・とおる)
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