『薬屋のひとりごと』羅漢と猫猫の関係は?人物像と家族をめぐる過去

静かな碁盤を挟み、父と娘の間に埋まらない距離を感じさせる中華風の室内 未分類

『薬屋のひとりごと』の羅漢は猫猫の実父ですが、猫猫が父として慕うのは、自分を育てた羅門です。

この親子の切なさは、血のつながりが明かされても、心の距離までは縮まらないところにあります。羅漢の人物像と鳳仙との過去をたどると、娘へ向ける過剰な愛情も、それを拒む猫猫の表情も、簡単には片づけられなくなります。

羅漢と猫猫はどんな関係?実父と育ての父は別の人物

羅漢(ラカン)は、猫猫(マオマオ)と妓女・鳳仙(フォンシェン)を血縁で結ぶ、猫猫の実の父親です。一方、猫猫を育て、薬師としての知識や生き方に大きな影響を与えたのは羅門(ルオメン)でした。

「猫猫の実父は誰か」と「猫猫にとって父親は誰か」は、答えが違います。 この違いを押さえると、羅漢の愛情に猫猫が応えない理由も、少し見えやすくなるはずです。

家族関係を整理すると、次のようになります。

人物羅漢との関係猫猫との関係
鳳仙かつて緑青館で出会い、後に身請けする相手実母
羅門叔父であり、幼い頃からの理解者育ての父
羅半(ラハン)異母弟の次男で、養子に迎えた甥血縁では従兄弟、養子関係では義兄

羅漢は猫猫を溺愛し、娘と一緒に暮らすことを望んでいます。しかし、猫猫は彼を父親として受け入れず、距離を置いた呼び方と態度を崩しません。

ここで胸に残るのは、猫猫の側には、すでに父と呼びたい人がいることです。羅漢がようやく娘へ手を伸ばせるようになった頃、その場所には羅門と過ごした日々が積み重なっていました。

羅半も、この家族を理解するうえで欠かせない人物です。数字に強く、宮中では財務を扱う文官として働き、羅家の家計も支えています。

羅漢に振り回されながらも父として慕う羅半と、血を分けながら父とは認めない猫猫。僕には、この対照そのものが、家族の近さは血縁だけでは測れないという物語の姿勢に見えます。

なお、以下では主にアニメ第1期と原作小説第2巻に関わる、羅漢・鳳仙・猫猫の過去と再会のネタバレを含みます。


『薬屋のひとりごと』羅漢は何者?変人軍師の才能と顔の見え方

羅漢は軍部の高官で、位は太尉です。周囲からは変人軍師として扱われていますが、人物の能力を見抜き、適した役割へ配置する力によって地位を築いた実力者でもあります。

片眼鏡をかけ、腹の内を読ませない態度で厄介事を持ち込む。その姿だけを見れば、猫猫や壬氏(ジンシ)を振り回す、不気味な人物に感じられるでしょう。

けれど、羅漢の人物像をたどると、その底には、幼い頃に周囲から理解されなかった時間が横たわっています。

人材登用と盤上遊戯に優れる軍部の重鎮

羅漢の強みは、自分一人で何もかもこなすことよりも、人の持つ力を見極めて動かすことにあります。囲碁や将棋に秀でている点も、配置と組み合わせによって局面を変える彼の資質につながっています。

特定の派閥に頼らず出世し、現帝からも一目置かれる一方、周囲には扱いにくい人物として警戒されています。能力の高さと、一緒に働きやすいかどうかは、彼の場合きれいには重なりません。

僕が気になるのは、これほど他人の適性を見抜ける人物が、娘との距離の取り方には不器用なことです。人を動かす才覚があっても、相手が自分に心を開く瞬間までは用意できないのでしょう。

アニメで羅漢を演じるのは桐本拓哉さんです。人物の背景を知った後では、飄々とした言動にも、初見とは違う重さが感じられます。

人の顔を見分けにくい羅漢を支えた羅門

羅漢は、生まれつき人の顔を見分けることが難しい人物として描かれています。幼少期にはその特性を家族に理解されず、父から期待を失われ、母からも十分に顧みられませんでした。

そこで彼に寄り添ったのが叔父の羅門です。声や体格、振る舞いなどを手がかりに相手を区別し、得意な将棋の駒に見立てて覚える方法を教えました。

人々が盤上の駒のように見える描写は、羅漢の人間認識を伝える、作品ならではの表現です。そこを単に「他人を道具としか思っていない」と読むと、彼が人を理解するために身につけた方法を取り落としてしまう気がします。

羅門は、羅漢に足りないものを責めるのではなく、彼が持っている力を使って他者と関われるよう支えました。羅漢が大人になっても叔父を敬い、頭が上がらないのは、能力を評価された以上の恩があるからではないでしょうか。

そして、羅漢が初めて顔を認識できた相手が鳳仙でした。猫猫もまた、彼が顔を認識できる数少ない相手として描かれます。

これは作中の人物描写として受け止めたいところです。そのうえで、輪郭をつかみにくい世界の中で、鳳仙と猫猫の存在が羅漢にとってどれほど特別だったかを考えると、あの執着めいた愛情にも別の陰影が差してきます。

※画像はAIによるイメージ

羅漢と鳳仙には何があった?出会いから17年越しの再会まで

羅漢と鳳仙は、緑青館で盤上遊戯を通じて親しくなりました。しかし、鳳仙の妊娠と羅漢の不在が重なり、二人は長く引き離されることになります。

再会までの歳月を知ると、後の身請けは華やかな恋の成就だけには見えません。ようやく届いた手の間に、戻らない時間があまりにも多く残っています。

囲碁での敗北が、鳳仙との始まりだった

同僚に連れられて緑青館を訪れた羅漢は、囲碁で鳳仙に打ち負かされます。その対局をきっかけに彼女の顔を認識し、二人は碁や将棋を打つ時間を重ねていきました。

僕には、出会いの入口が羅漢の勝利ではなく、敗北だったことが印象的です。何でも見通せるような男の世界を動かしたのは、自分の思いどおりにならない相手でした。

やがて鳳仙の価値が高まり、羅漢が会える機会は減っていきます。三か月に一度訪ねるのが精いっぱいとなる中、鳳仙には身請けの話が持ち上がりました。

いつまでも同じ盤を囲めるわけではない。その状況で、鳳仙は勝った側が望むものを得るという賭けを持ちかけ、二人は結ばれます。

ここで細かく見たいのが、勝負の条件が示された後に、二人の手が重なるという流れです。対局では対面に座っていた二人の距離が、言葉による明確な約束より先に、指先から変わってしまう。

鳳仙が碁を、羅漢が将棋を求めるくだりも、僕には互いに得意な勝負で相手を引き留めたいという願いに読めます。ただの遊びの好みではなく、欲しいものを欲しいと言い切れない二人の、不器用な意思表示だったのかもしれません。

三年の不在が、取り返しのつかないすれ違いになる

鳳仙は猫猫を身ごもり、出産します。一方の羅漢は、その事実を知らないまま、叔父・羅門の追放に関わる騒動の影響で都を離れ、戻るまでに三年を要しました。

その間に鳳仙の身請け話は立ち消えとなり、緑青館の信用にも大きな傷がつきます。鳳仙は厳しい境遇に置かれ、やがて梅毒に冒されて病床で暮らすようになりました。

羅漢が事情を知らずに不在だったことと、鳳仙がその間に苦しんだことは、両方とも消せない事実です。 故意に捨てたわけではないと分かっても、待つ側の三年まで軽くなるわけではありません。

都へ戻った羅漢は異変を知り、緑青館へ向かいます。しかし鳳仙との再会はかなわず、彼女が生きていることも知らされないまま、長い時間が流れていきました。

このすれ違いを、ただ言葉が足りなかった恋とだけ呼ぶのは、僕にはためらわれます。二人の意思だけではどうにもならない家の事情や花街の仕組みが、気持ちを伝える機会そのものを奪っていたからです。

猫猫と梅梅が、閉じていた道を開く

転機となったのは、猫猫が羅漢に緑青館の妓女を一人身請けさせる流れを作り、梅梅(メイメイ)が鳳仙との再会へ導いたことでした。こうして二人は、17年の歳月を経て再び顔を合わせます。

ただし、猫猫が最初から両親の再会だけを狙って、すべてを仕組んだと決めつけるのは慎重でありたいところです。猫猫は梅梅が身請けされる可能性も考えており、鳳仙へつながる最後の道には梅梅の働きがありました。

病によって姿が変わった鳳仙を前に、羅漢は身請けを決めます。失われた若さや年月を条件にせず、目の前にいる彼女を選ぶのです。

ここには確かに救いがあります。でも、救いがあるからといって、それまでの痛みが帳消しになるわけではない。その両方が残るから、この再会は胸に深く沈みます。

※画像はAIによるイメージ

猫猫はなぜ羅漢を嫌う?恐怖の記憶と羅門への思い

猫猫が羅漢を避ける背景には、幼少期の恐ろしい対面の記憶と、羅門が羅漢の才能を認めることへの嫉妬があります。単純に母を不幸にした相手として憎み続けている、という関係ではありません。

羅漢を理解するほど、その愛情が切実だったことは見えてきます。それでも、猫猫が怖かったという事実まで、父親側の事情で塗り替えることはできないはずです。

父の喜びが、娘には恐怖として届いた

幼い猫猫が目にした羅漢は、緑青館でやり手婆から打たれ、傷ついた姿で笑いながら手を伸ばしてくる大人でした。羅漢にとっては娘と出会えた喜びでも、子どもにとって安心できる光景ではありません。

同じ笑顔が、片方には希望で、もう片方には恐怖になる。僕は、この食い違いに親子の距離の原点を感じます。

羅漢は、自分の子を見つけた瞬間の気持ちを知っています。しかし猫猫が知っているのは、その時に自分へ迫ってきた姿と、幼い身体に残った怖さです。

ここを見落とすと、猫猫の態度は必要以上に冷たく見えてしまいます。けれど彼女は、羅漢の過去を説明するために、自分の記憶を手放す義務を負ってはいません。

羅門への嫉妬は、猫猫の大切な場所を示している

猫猫が深く尊敬する羅門は、羅漢の才能を高く評価しています。その評価に猫猫が嫉妬することも、実父への反発を強める要因です。

これは羅漢自身に認めてほしいという気持ちとは、分けて考える必要があります。中心にいるのはあくまで羅門であり、猫猫にとって、その言葉がどれほど大切かが表れているのでしょう。

薬や毒の話では冷静さを失うほど夢中になる猫猫が、父として慕う人の評価にも揺さぶられる。その小さな感情の動きに触れると、彼女が知識だけで生きる人物ではないことを思い出します。

猫猫は、羅漢を好ましく思わないことと、自分が生まれた経緯を恨むことを区別しています。両親が結ばれた結果に喜びを感じさせる様子も、父として受け入れたという意味にまで広げるべきではないでしょう。

誰かの幸せを願うことと、その人との距離を縮めることは、別々に選べる。 この親子を見ていると、その区別を大切にしたくなります。

※画像はAIによるイメージ

羅漢の家族の物語は純愛だけで語れる?救いと距離の考察

羅漢と鳳仙の再会は、長い年月を越えた純愛として受け取れる結末です。ただ、綺麗な家族の再生に見えるからこそ、そこに猫猫の気持ちまで一緒に回収してよいのか、僕は立ち止まりたくなります。

恋人同士が再び結ばれたことと、娘が実父を父として受け入れることは、同じ出来事ではありません。両親の幸福によって娘の拒絶が無効になるなら、それは彼女にとって少し息苦しい救いになってしまいます。

駒を読める男にも、娘の心を動かす一手はない

羅漢は、人の力を見抜き、局面を変えることに長けています。それでも猫猫の前では、差し出した愛情が期待した形で返ってくるとは限りません。

僕には、この不器用さが羅漢の人物像の核心に見えます。相手の能力を理解することと、相手が望む距離を受け入れることは、まったく違う難しさを持っているからです。

細かな言葉の選び方にも、そのずれがあります。羅漢が父として近づこうとする一方で、猫猫は彼を「あの男」と呼び、親子という呼び名が自分の内側へ入り込むのを止めています。

その呼び方を、照れ隠しだと片づけたくはありません。僕には、自分の父は羅門なのだという猫猫の生活の実感を、短い言葉で守っているように読めるのです。

羅漢の側には、ようやく見つけた娘と家族になりたい願いがあるのでしょう。けれど、その願いが切実であればあるほど、娘には受け止めきれない重さにもなり得る。

会いたかったんだよね。そばにいてほしかったんだよね。そう思いながらも、その気持ちだけで猫猫の居場所を決めてほしくはない――この二つの感情が、読む側の中にも並んで残ります。

羅門は、父と娘の両方を先に救っていた

この家族をつないでいる人物として、僕は羅門の存在を最も重く見ています。羅漢には他者を理解する手がかりを与え、猫猫には薬師として育つ日々を与えた人だからです。

羅漢と猫猫は互いへの態度こそ違っても、羅門を深く敬う点では重なっています。父と娘がまっすぐ向かい合えない間にも、二人にはすでに同じ人から受け取ったものがあるのです。

だからこそ、羅漢にとって必要な救いは、必ずしも羅門の位置に自分が収まることではないのかもしれません。自分が大切に思う娘は、自分が尊敬する叔父に育てられ、すでに生きる足場を得ていた――その事実を受け入れるところにも、父としての道はあると思います。

これは今後の展開を断定する話ではなく、この親子を見る僕自身の願いです。大きな和解の言葉がなくても、相手が選んだ暮らしを壊さずに気にかける関係なら、少しずつ築けるのではないでしょうか。

鳳仙との再会にしても、戻らない時間を取り返したと考えるより、残された時間をもう一度共に過ごせるようになったと受け止めたい。遅すぎたという痛みと、間に合ったという安堵は、同じ場所にあっていいはずです。

羅漢は猫猫の実父であり、鳳仙を長く思い続けた人物です。しかし猫猫にとっての父は羅門であり、その実感は血縁や両親の再会によって置き換わるものではありません。

この家族の救いは、全員が同じ形の幸せを選ぶことではなく、それぞれの思いが違ったままでも、相手の幸せを願えるところにある。僕はそう読みたいし、どうか、その距離の中で穏やかな時間を持ってほしいと思います。


よくある質問

羅漢は猫猫の本当の父親ですか?

血縁上の実父は羅漢、実母は鳳仙です。ただし、猫猫が父として慕っているのは、自分を育てた羅門です。

羅漢はなぜ猫猫に嫌われているのですか?

幼少期に傷ついた姿の羅漢と対面した恐怖の記憶に加え、敬愛する羅門が羅漢の才能を高く評価することへの嫉妬があります。猫猫の拒絶は、母に関する恨みだけでは説明できません。

羅漢と鳳仙は再会できたのですか?

猫猫が作った身請けの機会と梅梅の手引きによって、17年の歳月を経て再会します。羅漢は病を抱えた鳳仙を身請けすると決め、二人は再び共に過ごすことになります。

相沢 透(あいざわ・とおる)

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