『天は赤い河のほとり』のウルスラは、偽イシュタルからユーリの忠実な女官へ変わり、物語の未来を守るため重大な選択をした人物です。
最初の印象と最後の姿があまりにも違う。だからこそウルスラは、カイルやユーリとは別の角度から『天は赤い河のほとり』という作品の核心を映しているキャラクターだと私は感じます。
この記事では、『天は赤い河のほとり』のウルスラとは何者なのか、偽イシュタルとしての登場からユーリとの関係、カッシュとの恋、そして彼女が迎える運命までをネタバレ込みで整理します。
単に「悲しい最期を迎えた脇役」として見るのではなく、なぜ彼女の存在がユーリやカイルの物語に必要だったのか。そこまで踏み込むと、ウルスラという人物の見え方はかなり変わってきます。
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『天は赤い河のほとり』ウルスラとは何者?偽イシュタルから始まった人物
ウルスラは、ヒッタイト帝国西方の貧しい村に生まれた女性で、最初からユーリの味方だったわけではありません。
むしろ初登場時の彼女は、ユーリとは正反対ともいえる立場にいました。ナキア側の神官ウルヒの策略に利用され、「偽のイシュタル」として人々の前に姿を現すのです。
『天は赤い河のほとり』では、現代日本から古代ヒッタイトへ召喚された鈴木夕梨=ユーリが、戦功や人柄によって次第に「イシュタル」として民衆や兵士から支持されていきます。
ウルスラは、そのユーリの名声そのものを利用する存在として登場しました。
ウルスラはなぜ偽イシュタルになったのか
ウルスラを理解するうえで重要なのは、彼女が単純な悪人ではないことです。
貧しい暮らしから抜け出したい。美しい服を着たい。宝石や豪華な食事に囲まれたい。人から特別な存在として扱われたい。
彼女には、かなり俗っぽく、人間くさい欲望があります。
参考となるエピソードでは、豪華な衣装や宝石、食事や酒に囲まれた生活に心を奪われ、「この暮らしを続けたい」という欲を隠しません。
ここだけ見れば、ユーリの名を利用した困った人物です。
でも、私はこの「俗っぽさ」を削ってしまうと、ウルスラというキャラクターの魅力は半分以下になってしまうと思っています。
なぜなら彼女は、最初から自己犠牲のできる立派な女性ではないからです。
自分が幸せになりたい。
できれば苦労なんかしたくない。
貧しい場所には戻りたくない。
その気持ちからスタートした人間が、やがて自分より大きなもののために人生を差し出す。この落差こそが、ウルスラの物語なんですよね。
家族を失った過去がウルスラの「幸せへの執着」を深くしている
ウルスラは家族を七日熱で失っています。
つまり、彼女が「豊かな暮らし」を欲しがった背景には、単なる物欲だけでは説明できない喪失があるわけです。
家族も安定した生活も失った少女にとって、きれいな衣装や食べきれないほどの食事は、贅沢品というより「二度と奪われたくない生活」の象徴だったのかもしれません。
ここは私見ですが、ウルスラが本当に欲しかったのは宝石そのものではなく、明日も自分の居場所があるという確信だったように思えます。
だから偽イシュタルとして周囲からちやほやされたとき、彼女はそこにしがみついた。
それは褒められた行動ではありません。でも、その弱さが理解できてしまうから厄介なんです。
完全な悪役だったら嫌って終われる。
ところがウルスラは、こちらが切り捨てようとすると、その奥から「幸せになりたかっただけの少女」が見えてくる。
篠原千絵作品らしい、人間の感情を一色で塗らないキャラクター造形だと感じます。
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『天は赤い河のほとり』ウルスラとユーリの関係はどう変わった?
ウルスラの運命を大きく変えたのが、ユーリとの出会いです。
偽イシュタル事件を経たウルスラは処罰されて物語から退場するのではなく、やがてユーリに仕える女官となります。
ここが彼女の人生最大の分岐点でした。
ウルスラがユーリに心を動かされた理由
ユーリは現代日本から突然ヒッタイトへ連れてこられ、ナキアから命を狙われながらも、身分や立場にこだわらず人々と接していきます。
彼女が支持される理由は「異世界から来た特別な少女だから」だけではありません。
困っている人間を放っておけず、自分の身が危険でも動いてしまう。
その姿を目の当たりにしたウルスラは、ユーリとの差を思い知らされます。
ウルスラはかつて、ユーリの立場を奪おうとしました。
ところが本物のユーリを知るほど、「イシュタル」という名前だけを真似ても同じ存在にはなれないことに気づいていくわけです。
これが面白い。
ユーリの本物らしさは、称号から生まれたわけではありません。本人の行動が先にあり、その結果として周囲が「イシュタル」と呼ぶようになった。
一方のウルスラは、称号から先に手に入れようとした。
ここにはかなり鮮明な対比があります。
「ユーリにはかなわない」という敗北がウルスラを救った
ウルスラはユーリに対して、自分ではかなわないという趣旨の気持ちを示します。
普通なら「負けた」場面です。
でも私は、これは彼女が初めて勝ち始めた瞬間だと思っています。
それ以前のウルスラは、ユーリより幸せになれるか、ユーリの立場を奪えるかという比較の世界で生きていました。
しかしユーリを認めたことで、その競争から降りることができた。
「自分がユーリにならなくてもいい」と分かったんです。
誰かの偽物として生きることをやめ、自分自身として誰かを支える。
皮肉ですが、偽イシュタルをやめた瞬間からウルスラは、物語の中で誰にも代替できない存在になっていきます。
女官になってから見えるウルスラ本来の性格
ユーリの女官となった後のウルスラは、初登場時とは印象が大きく変わります。
明るく、人付き合いがよく、世話好き。
カイルとユーリの関係にも強い関心を持ち、なかなか素直に進まない二人を応援する側へ回ります。
この変化を「急に善人になった」と見ると少し違う気がします。
おそらく、こちらが見ているのは人格の交換ではなく、安全な居場所を得たことで初めて表に出せたウルスラ本来の性格なのではないでしょうか。
人は追い詰められていると、自分を守るだけで精いっぱいになります。
けれど、ユーリのもとで仲間に受け入れられたウルスラは、ようやく他人の恋愛を心配したり、笑ったり、誰かを応援したりできるようになった。
偽イシュタル時代より貧しい格好をしていたとしても、精神的にはむしろ豊かになっている。
この逆転が、私はかなり好きです。
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『天は赤い河のほとり』ウルスラとカッシュの関係とは?
ウルスラの物語を語るうえで外せないもう一人が、カッシュです。
ユーリに仕える中で、ウルスラはカッシュと恋仲になっていきます。
ここで初めて彼女の目の前に、奪った肩書きでも偽った身分でもない「自分自身として手に入れられる幸せ」が現れます。
カッシュとの恋はウルスラが欲しかった「普通の幸福」
カッシュはウルスラに、一緒に生きていく未来を示します。
ところがウルスラは、素直に飛び込めません。
相手にはほかに女性がいるのではないかと疑うような反応を見せます。
少しコミカルにも見える場面ですが、彼女の過去を考えると笑うだけでは終われません。
家族を失い、貧困を経験し、他人の肩書きを利用しなければ幸せになれないと思っていたウルスラにとって、「何もしなくても自分を選んでもらえる」という状況は、むしろ信じにくかったのでしょう。
本当に私でいいのか。
この幸せは突然消えないのか。
また奪われないのか。
強気に見える言葉の裏側に、そんな不安が透けて見えます。
だからこそカッシュとの恋は、単なる脇役同士の恋愛エピソードではありません。
ウルスラが「私は私のままでも愛される」と知っていく物語でもあります。
だからこそ二人の未来が失われることが苦しい
ここが残酷です。
ウルスラには、ようやく自分の人生を生きる可能性が生まれていました。
かつて彼女が望んだ「幸せ」は、宝石でも豪華な宮殿でもなくなっている。
好きな人と一緒に暮らす。
仲間たちと笑う。
ユーリたちの未来をそばで見届ける。
あれだけ遠回りした末に、欲しかったものがこんなにも普通の幸福だったと分かるんです。
だから彼女の運命は痛い。
最初から自己犠牲的な聖女だった人物が命を差し出すのとは、意味が違います。
ウルスラは生きたかったはずなんです。
カッシュと暮らしたかった。
もっと幸せになりたかった。
それでも、その未来を手放す選択に進んでしまう。
そこにウルスラというキャラクターの最大のドラマがあります。
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『天は赤い河のほとり』ウルスラの運命は?なぜ重大な選択をしたのか
ここからは、ウルスラの結末に関わる大きなネタバレを含みます。
ウルスラは物語の中で、皇帝暗殺をめぐる事件に巻き込まれます。そしてユーリを守るため、自ら罪を引き受けるという決断をします。
その結果、彼女は処刑される運命を選ぶことになります。
皇帝暗殺をめぐる謀略とウルスラ
『天は赤い河のほとり』では、カイルの継母にあたる皇妃ナキアが、自らの息子ジュダを皇位につけるため、長期にわたりカイルやユーリを排除しようとします。
ナキアの側には神官ウルヒがおり、政治的な謀略や暗殺を通じてカイル陣営を揺さぶっていきます。
カイルが皇位へ近づいていく過程でも、皇帝をめぐる事件によってユーリに疑いが向けられる事態が起きます。
そこでウルスラは、ユーリを救うために自分が罪を背負う道を選びます。
ウルスラがいなくなれば悲しむ人がいる。
カッシュもいる。
本人にも生きたい未来がある。
それでも彼女は、ユーリがここで失われれば、その先にあるカイルの治世や多くの人々の未来まで消えてしまうと考えたのでしょう。
ウルスラが選んだのは「死」ではなく「未来」だった
ウルスラの最期を「ユーリのために死んだ」と一文でまとめると、確かに事実関係は伝わります。
ただ、それだけでは彼女の選択が持つ意味をかなり落としてしまいます。
ウルスラが守ろうとしたのは、ユーリ個人だけではありません。
彼女はユーリとカイルが作ろうとしていた国、その先にいる人々、そして自分自身もいつしか信じるようになった未来を守ろうとしています。
カッシュが助けようとしても、ウルスラは簡単にはその手を取らない。
なぜなら逃げれば、自分が守ろうとしたものが崩れる可能性があるからです。
かつて「自分だけが幸せになれればいい」と考えていた少女が、最後には自分が見ることのできない未来を守る。
この変化が強烈です。
死ぬことそのものが美しいわけではありません。
むしろ生きてほしかった。
だからこそ、「生きたかった人物が、それでも守りたいものを選んだ」という痛みが残ります。
カッシュとの別れが示したウルスラの覚悟
ウルスラはカッシュとの別れでも、二人で逃げる未来ではなく、より大きな夢を選びます。
具体的には、カイルとユーリが目指す未来を自分も信じ、その実現を願うという方向へ気持ちを固めています。
ここで大事なのは、彼女がカッシュを愛していなかったから残ったわけではないということです。
むしろ逆でしょう。
愛している。
一緒に生きたい。
それでも離れる。
だから悲しい。
ウルスラとカッシュの別れには、「愛しているなら一緒にいるはず」という単純な恋愛観では説明できない重さがあります。
二人が同じ場所にいられなくなっても、同じ未来を願うことはできる。
ウルスラは最後に、恋愛そのものまで「所有する幸福」から「共有する願い」へ変えていったように私には見えます。
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『天は赤い河のほとり』でウルスラが果たした重要な役割とは?
ウルスラの重要性は、ユーリを救ったことだけではありません。
彼女は『天は赤い河のほとり』という作品が繰り返し描いてきた、「人は生まれや肩書きではなく、何を選んだかによって変わる」というテーマを体現しています。
役割1:ユーリが「本物のイシュタル」である理由を逆側から示す
ウルスラは最初、イシュタルという名前を利用します。
それによって逆説的に、ユーリがなぜ人々からイシュタルと呼ばれるのかが浮き彫りになります。
肩書きを名乗るだけでは、人はついてこない。
危険な場所へ自分から向かい、身分の低い人間にも手を差し伸べ、兵士と同じ場所に立つからこそユーリは支持される。
ウルスラは「偽物」として登場することで、本物とは何かを示す鏡になっているんです。
そして面白いことに、最後のウルスラ自身はもう何者かの偽物ではありません。
自分の意思で選び、自分の責任で行動する一人の女性になっています。
役割2:ユーリの人間性が他者を変えることを証明した
『天は赤い河のほとり』のユーリは、戦場で勝利するだけの主人公ではありません。
彼女が皇妃にふさわしい人物へ成長していくうえで重要なのは、周囲の人間が「この人の未来を守りたい」と思うようになっていくことです。
ウルスラは、その最も痛烈な証明の一人です。
ユーリに敵対した人物が、罰によって服従させられたのではない。
ユーリの行動を見て、自分から彼女の側に立つ。
最後には、自身の人生を左右するほど強くユーリの未来を信じるようになる。
政治とは肩書きだけでは動かない。
人が人を信頼し、その信頼が別の人間を動かして初めて、大きな力になる。
カイルが皇帝としての能力を示す一方、ユーリはこうした形で「人を惹きつける統治者の資質」を見せているのだと考えられます。
役割3:ナキアとユーリの違いを鮮明にした
ウルスラを見ると、ナキアとユーリの違いも非常に分かりやすくなります。
ナキアは人を支配し、利用し、目的のための駒として扱います。
神官ウルヒをはじめ、自らの力や謀略によって他者を動かしていく。
対するユーリは、少なくともウルスラに対して「自分のために命を捨てろ」と命じたわけではありません。
それでもウルスラは自分でユーリを選んだ。
ここに決定的な差があります。
恐怖で従わせるナキアと、行動によって人がついてくるユーリ。
二人の皇妃候補としての資質の違いを、ウルスラの人生そのものが証明しているとも読めます。
役割4:カイルとユーリの未来を「庶民の側」から意味づけた
『天は赤い河のほとり』は皇位継承、外交、戦争、宮廷政治が大きく動く物語です。
カイルが皇帝になることも、ユーリがその隣に立つことも、政治史的に見れば「権力者の交代」です。
でもウルスラの視点を通すと、その意味が変わります。
彼女は皇族ではありません。
高貴な血筋を持った人物でもありません。
貧しい村から出てきた、ごく普通の女性です。
そんなウルスラが「この二人が作る未来を見たい」と願う。
これはかなり重要です。
カイルとユーリが目指している国が、単なる二人の恋愛成就の舞台ではなく、名もない人々にとっても期待する価値のある未来だと示されるからです。
だからウルスラは、政治劇と少女漫画としての恋愛劇をつなぐ人物でもあります。
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ウルスラの運命が泣ける理由を考察|「偽物」から本当の自分になる物語
ここからは筆者としての考察です。
私がウルスラを『天は赤い河のほとり』でもとくに印象深い人物だと感じる最大の理由は、彼女の人生がきれいではないからです。
最初から優しくない。
最初から勇敢でもない。
欲深いし、嫉妬もする。
楽をしたいし、贅沢もしたい。
でも、それでいいんです。
そこから変わったから。
ウルスラは「偽物」だったからこそ本物になれた
登場したときのウルスラには、「偽イシュタル」という強烈な記号があります。
しかし物語を最後まで追うと、「偽物」とは何だったのだろうと考えさせられます。
イシュタルを名乗ったことは偽りでした。
でも、ユーリを信じたことは偽りではない。
カッシュを愛したことも偽りではない。
仲間との時間も、最後に選んだ覚悟も偽りではありません。
肩書きだけを見れば、最後までウルスラは女神ではない。
それなのに彼女が最後に示す献身は、偽イシュタルだったころとは比べものにならないほど尊いものになっています。
私はここに、このキャラクター最大の皮肉と美しさを感じます。
「本物になる」というのは、立派な肩書きを手に入れることではない。
自分が何を大切にするのかを、自分の意思で選べるようになることなのだと。
ウルスラはそう語っているように見えるんです。
幸せを求めた女性が「自分では見られない幸せ」を願うまで
さらに胸に刺さるのは、ウルスラの「幸せ」の定義が変化していることです。
最初は自分が豊かになることでした。
次に、ユーリたちと過ごす居場所が幸せになる。
そしてカッシュと生きる未来が生まれる。
最後には、自分がそこにいなくても、愛する人たちが幸せに生きられる未来を願うようになる。
これは単純な自己犠牲とは少し違うと思います。
幸せの範囲が、自分一人から少しずつ外側へ広がっているんです。
自分。
仲間。
恋人。
ユーリ。
カイル。
そして二人が作る国で生きる人々。
ウルスラの人生を一本の線で見ると、「私だけ幸せになりたい」から始まった人が、「自分がいない未来の幸せ」まで願えるようになったことが分かります。
だから最後だけ読んでも、たぶん同じ衝撃にはならない。
偽イシュタル時代の彼女を知っているからこそ、最後の選択が効いてくるんです。
ウルスラを聖女にしすぎてはいけない
ただし、私はウルスラの最期を「美しい自己犠牲だった」で終わらせたくありません。
カッシュと一緒に生きてほしかった。
もっと笑ってほしかった。
ユーリたちが幸せになった未来を本人にも見てほしかった。
そう思ってしまう。
作品としても、彼女が失われることの理不尽さまで含めて胸に残るのだと思います。
「正しい選択をしたから死んでもよかった」という話ではありません。
むしろ、生きて幸せになる資格が十分にあった人物が失われるからこそ、ナキアやウルヒによる権力闘争がどれほど多くの人間を傷つけたのかが分かる。
これは宮廷政治を描くうえでも重要な意味を持っています。
王族同士の争いは王族だけで完結しない。
一つの謀略の背後で、ウルスラのような普通の人間の人生が消えていく。
その重さを読者に実感させる役も、彼女は担っているのです。
ウルスラの死がユーリに与えたもの
そして忘れてはいけないのが、ウルスラがユーリにとって単なる「忠実な部下」ではなかったことです。
敵として現れ、やがて仲間になり、笑い合える女官になった。
そんな人が、自分を守るために命を失う。
その出来事を背負ったまま、ユーリはこの先も進まなければなりません。
『天は赤い河のほとり』でユーリが最終的に皇妃へ向かっていく道は、華やかなシンデレラストーリーではありません。
ティトをはじめ、ユーリの人生には「自分に関わったことで失われた命」が積み重なっています。
ウルスラもその一人です。
だからユーリが国を守ろうとすること、犠牲を少なくしようと戦うこと、カイルの理想を支えようとすることには、単なる善良さ以上の重みが生まれていきます。
自分のために人生を託した人たちを、無意味にできない。
そんな言葉にならない責任まで読み取ると、ウルスラの存在は彼女の死後も物語から消えていないことが分かります。
原作で読むとウルスラの変化がより刺さる理由
ウルスラについて調べると、どうしても「偽イシュタル」「ユーリの女官」「カッシュの恋人」「悲劇的な最期」という出来事だけを追いがちです。
でも原作で連続して読むと、その間にある表情や会話の積み重ねが効いてきます。
最初の俗っぽさを知っているから、その後にユーリを心配して動き回る姿が愛おしくなる。
カッシュとのやり取りを見ているから、「この二人にはこの先がある」と自然に思ってしまう。
そして、そう思わせてから運命が反転する。
篠原千絵作品の怖さは、こういうところなんですよね。
重大な場面だけを要約すると数行で終わるのに、そこへ至るまでの日常が描かれているから、読者は「設定上の死」ではなく「知っている人を失った感覚」に近いものを覚える。
とくにウルスラの場合、彼女の魅力は大事件だけでは完成しません。
女官になってからの何気ないやり取り、ユーリとカイルを見守る距離感、カッシュの前で見せる女性としての顔。
そうした物語の行間を追って初めて、最後に彼女が何を手放したのかが分かります。
アニメで物語に触れた人ほど、ウルスラが本格的に関わる流れは原作で通して読むと印象が変わるはずです。
結末を知っていても、その途中を知れば知るほどつらくなる。だけど、それこそが彼女を「一度登場して消える脇役」で終わらせない理由なのでしょう。
『天は赤い河のほとり』ウルスラとは何者だったのか|運命と役割まとめ
『天は赤い河のほとり』のウルスラは、貧しい環境から抜け出したいという思いを利用され、偽イシュタルとしてユーリの前に現れた女性です。
しかしユーリと出会い、その行動や人柄に触れたことで変化し、やがて女官として彼女を支える大切な仲間になります。
さらにカッシュと愛し合い、自分自身の幸福を手に入れられる可能性も得ました。
それでも最後には、ユーリとカイルが作ろうとする未来を守るため、自ら非常に重い選択をします。
ウルスラの重要な役割を整理すると、次のようになります。
- 偽イシュタルとして登場し、ユーリが「本物」と呼ばれる理由を際立たせた
- ユーリとの出会いによって、人間が変化できることを体現した
- カッシュとの恋を通じて、ウルスラ自身にも守りたい幸福が生まれた
- ユーリを守る重大な決断によって、カイルとユーリの未来につながった
- ナキアの支配とユーリの人望の違いを、庶民の立場から示した
- 王族の権力争いによって失われる「普通の人々の人生」を象徴した
個人的には、ウルスラを「ユーリのために犠牲になった忠臣」という言葉だけでは終わらせたくありません。
彼女は、自分の幸せだけを求めることも知っていた。愛されたい気持ちも、贅沢したい気持ちも、生きたい気持ちもあった。
その全部を持ったまま、それでも最後に別のものを選んだ。
だから強いんです。
偽の女神として物語に入ってきたウルスラが、最後には誰かの名前を借りなくても忘れられない人物になる。
『天は赤い河のほとり』には数多くの王族、将軍、神官が登場しますが、ウルスラは肩書きではなく「変わること」と「選ぶこと」によって物語へ名前を刻んだ人物だったのだと思います。
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原作を読んで初めて得られることが多いです。とくに完結済み、もしくは終盤に入っている作品ほど、
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「いつか読むつもり」の作品があるなら、先に確保しておくほうが無難です。
よくある質問
『天は赤い河のほとり』のウルスラは最初からユーリの味方ですか?
いいえ。ウルスラは当初、ウルヒの策略に利用されて偽イシュタルを名乗り、ユーリと対立する立場で登場します。
しかしユーリの人柄や行動を知ることで考えを変え、その後は女官となって彼女を支える重要な仲間になります。
ウルスラとカッシュはどんな関係ですか?
ウルスラとカッシュは、物語が進む中で恋愛関係になります。
ウルスラにとってカッシュとの未来は、偽った肩書きや贅沢ではなく、自分自身として得られる「本当の幸せ」を象徴しており、それだけに二人の運命は強い余韻を残します。
なぜウルスラは『天は赤い河のほとり』で重要なのですか?
ユーリを守る重大な役割を果たすだけでなく、偽イシュタルから忠実な仲間へ変化することで、ユーリの人間性や指導者としての資質を浮かび上がらせるからです。
また、自分の幸福だけを求めていた女性が他者の未来まで願うようになる過程は、『天は赤い河のほとり』が描く「人は選択によって変われる」というテーマを象徴していると考えられます。
相沢 透(あいざわ・とおる)


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