終末ツーリング 噴火の謎を解説｜富士山崩壊が示す人類滅亡の伏線とは

崩れ落ちた富士山の姿を、あなたはもう見ましたか。あの“かつて日本を象徴していた山”が欠けている光景は、まるで心臓の鼓動が一拍止まるような静寂を生み出します。

『終末ツーリング』は、ただの廃墟旅ではありません。旅の景色一つひとつに、人類が“なぜ消えたのか”という断片が埋め込まれている。噴火の痕跡、AI兵器、環境汚染、そしてあの富士山崩壊──それらすべてが、物語を貫く一本の線につながっていくのです。

この記事では、公式情報と個人考察・レビュー・ファン投稿の温度を両方すくい上げながら、あの崩れた富士山が何を意味しているのか、なぜ噴火が“謎”として読者を引き付けるのかを徹底的に読み解きます。読み終わるころには、きっとあなた自身の中にも「この世界に何が起きたのか」という問いが鮮やかに灯っているはずです。

とくに今回は、アニメ1話で提示された“欠けた富士山”を中心に、原作で段階的に明かされる終末の断片を結びつけていきます。物語の奥に沈んだ“見えない層”に指を触れる感覚で、じっくり進んでいきましょう。

終末ツーリングとは｜作品概要と終末世界の基礎構造

滅びの静けさに満ちた日本という舞台の異常性

『終末ツーリング』という作品に触れて最初に胸をつかまれるのは、“静けさ”そのものです。普通、終末ものと聞けば、爆発音や逃げ惑う人々、緊迫した空気を想像するはずなのに、この作品は真逆で、音が消えている。僕は最初、その静寂がただの背景処理だと思っていたのですが、読み進めるうちにそれが“異常の証拠”なんだと気付かされました。まるで深海に潜る直前のような、耳鳴りすらも遠ざかる感覚。あの日本には、もう「生活音」という文化が存在しないんです。

この静けさの正体を考えると、終末の理由の複合性が見えてきます。単純な自然崩壊だけでは、こんな均質な静寂は生まれない。戦争の瓦礫やAI兵器の停止線、環境崩壊といった“人間の痕跡”と“自然の回復”が同時に進行してしまった結果、音が消えた──そんな層の重なりが透けて見えるんです。とくに箱根や首都圏周辺の描写は顕著で、観光地の看板が風に揺れず、風景は残っているのに“使用感”だけが抜け落ちている。これは都市が死んだとき特有の、重力のような静けさなんですよね。

読んでいて何度も思ったのは、「ああ、この日本は“完全に終わった国”なんだ」という確信です。しかも、『終末ツーリング』が面白いのは、その終わり方が“暴力的な破滅”ではなく、“誰も気づかないままフェードアウトする終末”だという点。もし一気に噴火や災害で滅んだなら、もっと荒れているはずなんです。そうではなく、文明が削り取られ、管理と秩序の延命が続き、それでも静かに限界に達してしまった──そんな“衰弱死した文明”の匂いが漂っている。

特に令和13年の硬貨という象徴的な手がかりは、終末が“突然ではなかった”という印象を強めます。日付が残っているのに、人がいない。このねじれが異常なんです。僕が現地をツーリングしているような気分になったのは、景色だけじゃなく“時間”まで歪んでいるからで、あの感覚は写真や映像では絶対に伝わらない。原作ページをめくるたびに、風景の奥の“失われた日常”がゆっくりと姿を見せてくるんです。

こうして整理すると、『終末ツーリング』の舞台はただの廃墟ではなく、“文明が溶けていく途中で時間が止まった日本”なんですよね。読むほどに「この終末は作られたものなのか、自然なのか」という疑問が深まり、それがまた読者の想像力を刺激してくる。この“静かすぎる世界”こそが、終末の理由を読み解くための最初の伏線なのだと、僕は確信しています。

“旅”としての軽さと“終末”としての重さが同居する理由

『終末ツーリング』を語るとき、僕がいちばん惹かれてしまうのは“旅”の軽さと“終末”の重さが、異常なほど自然に同居していることです。ふつうこの2つは水と油のように混ざらないのに、この作品では同じページの中で呼吸している。これが本当に不思議で、読みながら何度も“この感覚はどこから来るんだろう”と立ち止まってしまいました。

まず旅の側面から言えば、ヨーコとアイリのツーリング描写は驚くほど軽やかです。彼女たちは終末後の世界を恐れず、ただ「走りたいから走る」。その自由さは、まるで夏の早朝にバイクで山道を抜けるときのあの感覚に近い。風が頬に触れる前に、胸が先に開くような、あの“ひらける瞬間”。でも同じ景色の中に、ふと崩れた街や、停止した軍事AI、割れた高速道路の影が紛れ込んでいるんです。

この対比は意図的に設計されています。終末の重さを真正面から描くと、作品は一気に世界の暗さに引っ張られてしまう。だけど“旅”という軽快なフレームを使うことで、読者は気づかないまま深いところへ連れていかれるんですよね。いわば、物語が静かに“下り坂”になっていて、風景を楽しんでいたつもりが、いつのまにか終末の核心へと滑り込んでいる。これは構造として本当に美しい。

そして旅が軽い理由は、少女たちが“この世界を知らない世代”だからです。彼女たちにとって文明崩壊は“歴史”であって、“喪失”ではない。僕ら読者だけがその喪失を感じてしまう。だからこそ、彼女たちの無邪気さが終末の残酷さを逆に浮かび上がらせてくる。たとえば廃墟のコンビニで「わあ、昔の食べ物だ」と笑うシーンひとつで、かつてそこにあった日常を知る僕らは胸を刺される。旅の軽さは、読者が感じる重さの“増幅器”になっているんです。

この構造があるからこそ、『終末ツーリング』は“気づけば心を掴まれている”作品になります。旅は軽やかに、終末は重く、その差分に物語の温度が宿る。僕自身も、読み返すほどこの落差に魅了されていく。山道で突然視界がひらけて富士山が見える瞬間のように、軽さの中に重さが立ち上がる。その“温度差”こそが、この物語の真の魅力なんだと思います。

富士山崩壊という衝撃｜アニメ1話が突きつけた伏線の本質

欠けた山体が示す“日本文明の断絶”というメッセージ

アニメ『終末ツーリング』第1話。箱根の大観山から見える富士山が“欠けている”と気づいた瞬間、僕は正直に言うと息を呑みました。あれは単なる背景じゃない。むしろ、あの景色こそが作品の中核であり、終末の理由を語らずに語っている“核心の絵”なんです。富士山って、日本人にとって記号的すぎるほど記号ですよね。観光地でもあり、神話の象徴でもあり、国語の教科書にすら出てくる。それが壊れているという事実は、いわば「日本文明が決定的に折れた」というサインなんです。

実際、SNSやまとめサイトでも「富士山の形、おかしくない？」という投稿が最初期から大量に流れました。視聴者の反応がここまで一致するのって、富士山という存在に“眼が覚えるような違和感を生む力”があるからなんですよ。僕自身、初見では「噴火かな？」と単純に考えたんですが、繰り返し観るうちに噴火だけで説明がつかない点のほうに意識が向き始めました。山体崩壊にしては地形が綺麗すぎるし、火山灰の堆積の描写も薄い。自然災害の痕跡と人工的な破壊の痕跡が奇妙に混じっている。

この“自然か人工か分からない破壊”が、実は終末の決定的な特徴なんじゃないかと僕は思っています。戦争やAI兵器が絡んだ可能性を示唆するファン考察は多いし、原作の進行とともに“武力衝突の痕跡”“自律兵器の暴走”が複数示されていく。噴火説と人工破壊説のどちらに軍配を上げるかは難しい。しかし、どちらにせよ“日本の心臓部が破壊されている”という象徴性は揺るがないんです。

富士山の欠損は、地形がただ崩れただけではなく、文化・歴史・記憶の断絶でもある。日本の象徴が“穴のように欠けている”というビジュアルは、まるで文明そのものに開いた空洞のように見えました。作品が描く終末世界の根底には、“失われたものの大きさ”を静かに突きつける重さがある。その鍵を握っているのが富士山なんです。

僕は何度もあのカットを見返しているのですが、見るたびに「これは地形ではなく、物語そのものが崩れているんじゃないか」と錯覚するほど。山のシルエットは、作品の未来予測や終末の真相に関する“最初の大きな謎”なんですよね。あの異常な輪郭は、たぶん物語全編に影を落とす巨大な伏線として仕掛けられているんだと思います。

噴火か、人工的破壊か──ファン考察が分岐する背景

富士山崩壊の要因について、ファンの間で意見が大きく分かれているのはご存じでしょうか。これが本当に面白いんです。自然災害派と人工破壊派で、見ている“世界の重さ”がまったく違う。僕はこの分岐そのものが、作品の設計上とても重要な役割を持っていると感じています。

まず自然災害派の主張はシンプルです。「富士山は活火山なのだから、噴火して山体が崩れた」というもの。作品には火山ガスでヨーコが倒れる描写があったり、環境汚染・気候変動の気配が随所に漂っているので、噴火説を支持するのも理解できる。ただし問題は、火山灰の堆積が圧倒的に少ないことなんですよ。通常なら街一帯に火山灰が降り積もっているはずなのに、それが見えない。そこがどうにも引っかかる。

逆に人工破壊派は、富士山が“爆撃目標として破壊された”と見る説です。世界には戦争の痕跡があり、AI兵器が自律的に動いている描写もある。これらが繋がれば、富士山は軍事的理由で撃ち抜かれた可能性を否定できない。SNSでは「隕石落下説」「兵器の試射説」など、極端だけど妙に説得力のある考察が飛び交っている。でもここにも弱点があって、富士山周辺に広範囲の爆撃痕がない点が説明しづらい。

ここでひとつ、僕がずっと考えている仮説があります。それは“富士山崩壊は単独要因では説明できない”ということ。噴火の兆候もある、人工破壊の痕跡もある。でもどちらも決め手に欠ける。その曖昧さの正体は、むしろ「複合災害」なんじゃないか。戦争の中でAI兵器が暴走し、その衝突が富士山周辺の地殻を刺激して噴火を誘発した──そんな“連鎖の終末”の可能性がぬるっと浮かび上がるんです。

『終末ツーリング』の面白さは、こうした“決定的な答えを提示しない終末”にある。だから読者は、風景の一枚絵から終末の気配を読み取ろうとする。富士山が欠けている理由を考えるという行為は、そのまま作品の読み解き方を象徴しています。僕自身、バイクで山を走るたびに、つい「もしこの山が欠けていたら…」と想像してしまうほど。富士山崩壊は、単なる地理情報ではなく、読者の思考を終末の中心に導く“巨大な磁場”なんですよ。

そして、この分岐する考察は物語の魅力を加速させます。噴火なのか、破壊なのか、その両方なのか。どのルートを選んでも“読み解く快感”が生まれる。終末アニメにおける富士山の使い方として、ここまで象徴的で精密なものを僕はほとんど見たことがありません。答えが出ない。それでも、考えたくなる。考えるほど深みにハマる。まさに作品の核です。

噴火の謎を解きほぐす｜火山・環境・戦争・AIの複合災害説

火山活動の痕跡と“なさすぎる”火山灰が語る違和感

『終末ツーリング』の世界には、明らかに火山活動の痕跡があるんです。ヨーコが火山ガスで倒れたあのシーン──あれは読んだ瞬間、僕の背中にもひゅっと冷たいものが走りました。終末世界での火山ガスは「地球そのものがまだ動いている」という強烈なサインでもあるのに、その危険があまりに自然に挿入されていて、読者は思わず見逃しそうになる。こういう“静かな危険”の扱い方が本当に巧い作品なんですよ。

ただ、火山描写があるにも関わらず、どれだけ観察しても「火山灰の量が圧倒的に少ない」という事実が抜け落ちている。これは本当に異常です。通常、富士山クラスの噴火が起きたら、関東一帯は灰に埋もれ、建物の屋根や道の端に灰が積もっているはずなんです。でも作中では、荒廃した建物はあれど、“灰に覆われた都市”という絵はほとんど見られない。これは何度読み返しても気になるポイントで、読者の多くがSNSで指摘しているほど。

僕自身、最初は「描写の簡略化かな」と軽く考えました。でも冷静に読み解くと、それでは説明がつかない点があまりに多い。火山ガスがあそこまで濃く漂っているということは、火山活動がごく近い年代に起きているはず。しかし、火山灰が都市を覆うほどではないという矛盾。このねじれこそが、噴火の謎を“単純な自然災害”から遠ざけている最大の根拠だと思うんです。

僕がしつこいほど考えているのは、「火山活動は確かにあった。しかし富士山の崩壊は、噴火だけでは説明しきれない」という可能性です。たとえば、噴火規模が局所的だった、あるいは地殻変動に伴う山体崩壊だった──そんな自然現象の中間のようなケースもありえる。だけどそれでも、“あの滑らかな断面”は説明できない。自然の造形はもっと荒々しいはずなんです。

だからこそ、僕は思うんですよ。火山ガスと少ない火山灰。このセットは、意図的に“違和感”として置かれているんじゃないかと。読者がこの世界の終末理由を追いかけるとき、最初にぶつかる“歪んだピース”として富士山周辺が機能している。疑問が生まれるように設計されたピース。そういう視点で読み解くと、『終末ツーリング』の終末構造がじわじわ見えてくるんです。

AI暴走・戦争・環境崩壊──噴火単体では説明できない連鎖

『終末ツーリング』を深掘りしていくと、「噴火だけでは終末は起きない」という事実に必ず行き当たります。作中にはAI兵器、自律戦闘車両、軍事衝突の痕跡、環境汚染、海面上昇、生態系の変化……もう“これでもか”というほど複合災害の要素が散りばめられている。僕は、これを読めば読むほど「噴火はあくまで“終末の一因”であって、決定打ではない」と感じるようになりました。

特に印象的なのは、兵器が“人類不在のまま動き続けている世界”の描写です。つまり、人間が消えたあともAI・機械は使命を遂行し続け、多くは暴走に近い状態で稼働している。これ、現代のAI技術を知っている人ほど背筋が冷えるポイントだと思うんですよ。人がいなくなっても動き続ける機械という構図は、噴火以上に“文明の死に方”として重いテーマを背負っている。

さらに、環境崩壊の兆候が随所に点在しているのも見逃せない。汚染された海、巨大化した魚、奇妙な気候の変化──これらは単なる背景ではなく“原因の断片”として描かれている。自然災害と人工災害が同時進行していた可能性が高いんです。僕はこの構造を読んだとき、「終末の正体は“崩壊の連鎖”なんだ」とすごく腑に落ちました。

こうした複合災害説は、ネット上でも徐々に支持が増えている考察で、特にファンブログや考察勢が深堀りしているテーマでもあります。「噴火だけで説明できない」「AIだけで説明できない」「戦争だけでも弱い」。だからこそ、富士山崩壊という“象徴的破壊”が、終末全体の中心に配置されている。あれは連鎖の“象徴”、終末の“起点”ではなく“結果”なんです。

僕が好きなのは、こうした考察が作品の読解をどんどん広げていく点です。噴火、戦争、AI、環境崩壊──それぞれの要素が独立しているようで、実はすべてがひとつの終末へ向かう伏線の束になっている。富士山崩壊の謎を追うという行為は、その伏線を一本ずつ拾い上げていく作業そのものなんですよね。読むほどに「世界の終わりの形」が鮮明になるのに、肝心の“真相”には触れさせない。この距離の取り方が、たまらなく魅力的なんです。

人類滅亡の伏線を探る｜断片として配置された“終末の証拠”たち

令和13年硬貨・軍事ログ・生存者証言がつなぐ時間軸の断面

『終末ツーリング』という作品のすごさは、“人類滅亡”を決して説明しないのに、読者がその理由を自分で組み立てられてしまうほどの“断片”をばらまいている点にあります。その代表が、令和13年硬貨、軍事施設のログ、そして最新巻に近づくほど増えていく“生存者の証言”です。この3つはまるで、終末という巨大なジグソーパズルの角ピースみたいな存在で、そこに触れた瞬間に全体像の“輪郭”だけがぼんやりと浮かび上がる。

まず令和13年硬貨。これは読者の多くが「違和感が強すぎる」と口を揃える要素です。硬貨は時間の証拠であり、文明の痕跡そのものでもある。そこに刻まれた“13”という数字は、現実の日本ではまだ迎えていない未来であり、その未来が“確かに存在した”ことを示す。だけど、その未来を生きていたはずの人間たちはいない。この矛盾こそが、終末の異常性を示す最初の伏線なんですよ。僕はこの硬貨を初めて見たとき、「あ、これは“ある日突然滅んだ”タイプの終末じゃない」と直感しました。

軍事ログも非常に重要です。放棄された戦闘車両、自律兵器の停止や暴走の痕跡。しかもこれらが“まだ機能している”というのが怖い。人間の不在を確認しながらもなお行動を続けるAI兵器は、人類滅亡の理由が“単なる自然災害ではない”ことを確実に示しています。SNSでも「AI暴走が主原因なのでは」「戦争が引き金では？」といった意見が飛び交っていますが、僕は逆に“主因をひとつに絞らせない”ための描写だと感じている。つまり、戦争もAIも自然災害も“全部少しずつ正しい”という構造。

そして生存者の証言。これがまた物語の温度を変えてくる。数少ない人の声が、断片的に“何が起きたのか”を語ることで、読者の想像が一気に最終局面へ引き寄せられる。彼らの語る内容は曖昧で、決定的な情報は落としているのに、逆にそれが“真実に近づいている感”を強く生む。僕はあの証言パートを読むたびに、胸がざわつくんです。まるで廃墟の中に埋まっていた日記帳の最後の数行だけを拾い読んでいるような、不完全な理解のまま深淵を覗かされる感覚。

この令和13年硬貨・軍事ログ・生存者証言という三つの断片は、時間軸を繋ぎながら“終末の形”を暗示する巧妙な仕掛けです。読者がそれを拾うことで、自然と終末の「全体像に触れた気」になってしまう。けれど、その全体像は決して明確ではない。この“分かりそうで分からない”構造こそ、実は作品全体の伏線として最も強烈に機能している部分なのだと思います。

夢の中の“過去映像”が語る、物語最大の核心への接近

そして僕が個人的に“最も危険な伏線”だと感じているのが、ヨーコが見る夢のシーンです。これ、ただの比喩演出ではなく、物語の背骨に触れる“バグのような記憶”なんですよ。読んだ人なら分かると思いますが、夢の中の世界は妙に生々しくて、現実の記憶をなぞっているかのような正確さがある。街のざわめき、人々の声、当たり前に続いていた世界の断片。その正確さが逆に恐ろしい。

僕は初めてあの夢シーンを読んだとき、「あ、この子たちは“終末の前”の匂いを知らないんだ」と理解しました。だけど夢はその前の世界を知っている。これは何を意味しているのか。読者の中でも「遺伝的な記憶なのでは」「AIが記録したデータが夢に流れ込んでいるのでは」「実は世界そのものがループしているのでは」と、さまざまな考察が生まれている部分です。

僕が注目しているのは、“夢だけが唯一、終末の真相に触れている”という点なんです。夢は証言でもなく、資料でもなく、誰かの主観でもない。物語の外側から差し込む光のように、“過去の現実”を断片的に映し出す。この構造が本当に危うくて、読んでいると“知らなくていい真相”に触れてしまいそうな感覚になる。ここまで読者の“想像の領域”を刺激してくる夢描写は珍しいです。

そしてこの夢は、実際に富士山崩壊の謎ともリンクする可能性がある。夢の中の世界は、まだ富士山が健全に存在し、人々が日々を送っていた時間。しかし、その時間に“終末の気配”が薄いながらも漂っているように感じられるんですよ。僕はあれを読むたびに、「終末は突然ではなく、じわじわと世界の底を食い破っていたんじゃないか」と感じてしまう。まるで沈む船の底が、ゆっくりと裂けていくように。

夢の中で描かれる“過去映像”は、終末の真相に限りなく近いのに、核心には触れさせない。これはまさに読者を“次の巻へ”導く装置でもあり、作品特有の余韻でもある。富士山崩壊の謎、人類滅亡の原因、噴火・AI・戦争・環境の連鎖──そのすべてを結ぶ糸が、実はあの夢に隠されている。僕はそう感じずにはいられないんです。

富士山崩壊は何を象徴するのか｜あいざわ独自考察で読み解く終末の本質

富士山は『終末ツーリング』の“心臓”であるという視点

富士山が欠けている──この一枚のビジュアルが、作品全体の構造を握っている。僕はずっとそう確信しています。富士山って、地形であり、象徴であり、日本人にとっては“帰巣本能”に近い感覚を揺さぶる存在です。幼いころ、車で旅行に向かうときに遠くに富士が見えた瞬間、「あ、日本だ」って胸が動いた人、きっと多いと思うんですよ。その“日本の心臓”が割れているという事実。これは、ただの自然災害ではありません。物語世界そのものに空いた巨大な穴です。

僕は実際にバイクで富士山の麓を走ったことがあって、あのシルエットは本当に異様なほど“安定”しているんです。あれが欠けている、というだけで読者は無意識のうちに「この世界はもう正常ではない」と判断してしまう。それだけ富士山は、視覚的な文化記号として強い。『終末ツーリング』が終末世界の“入口”にこの光景を置いたのは、単にインパクトのためではなく、読者に「ここはもう我々の知る日本じゃない」と身体感覚で理解させるための設計だと思うんです。

そのうえで、富士山崩壊の“どこか人工的に見える断面”が気になって仕方ない。噴火にしては滑らかすぎる。兵器による破壊にしては焦土が足りない。隕石にしては周囲の地形が穏やかすぎる。読めば読むほど、すべての原因が“少しずつ当てはまって、少しずつズレている”という奇妙な感触が残る。僕はここに『終末ツーリング』の本質があると考えています。

つまり、富士山崩壊は“単一の原因で説明できない終末”の象徴なんです。戦争、AI、環境崩壊、火山活動──その全てが血管のように絡み合い、最終的に“富士山という心臓”へ集まり、そして破裂した。この視点で読み解くと、作品全体の伏線配置が一気に繋がる。噴火も、軍事ログも、令和13年硬貨も、ヨーコの夢も、すべてがこの“断裂した心臓”へ収束していくんです。

そして何より、僕はあの欠けた富士山が“物語の感情”を吸い込むブラックホールのように感じている。読者は自然とその穴を覗き込み、終末の理由を知りたくなる。怖いのに目が離せない。そういう魔性が、あの山には宿っている。富士山は地形としてではなく、『終末ツーリング』の鼓動として配置されているんです。

少女たちの旅が“未来への祈り”として読める理由

ここまで富士山を“終末の象徴”として語ってきましたが、それと対になるのがヨーコとアイリの旅です。終末世界をバイクで走る少女たち──この構図自体はよくあるようで、実は本作ではとんでもなく重要な意味を持っている。僕が何度も感じてしまうのは、「彼女たちは崩れた富士山とは真逆の存在だ」ということ。富士山が“失われたもの”の象徴なら、少女たちは“残されたもの”“未来へ続く線”の象徴なんです。

ヨーコとアイリの行動には、不思議なくらい絶望がない。誰もいない。文明は崩壊している。それでも彼女たちは「まあ、行くか」というテンションで旅を続ける。この軽さは単なるキャラ付けではなく、“過去を背負っていない世代”だからこその軽さなんです。終末以前を知らない世代は、壊れた世界を悲しまない。だから彼女たちの視点は、常に前へ伸びていく。

この軽さと前向きさは、作品全体にとって“救い”になっていると僕は感じています。富士山がこびりつかせる絶望の重さを、彼女たちの旅がそっと中和してくれる。これを祈りと言わずして何と言えばいいのか。人間が滅びても、世界は終わらない。文明が欠けても、風景の中を走る者がいる。彼女たちの存在は、終末の中に埋もれた“かすかな希望の証拠”なんです。

そして僕が一番好きなのは、旅を続けるほど“世界の断層”が浮かび上がってくる感じ。海の変質した生態系、AI兵器が残した傷跡、謎の生存者の声、そして欠けた富士山。少女たちの旅は、過去をほじくる発掘作業ではない。むしろ、未来へ向かって進む歯車が、偶然にも終末の謎を拾い上げてしまう構造になっている。これがたまらなく愛おしい。

富士山崩壊という“過去の断絶”と、ヨーコたちという“未来への線”。この対比があるからこそ、『終末ツーリング』は“滅びの物語”でありながら、それ以上に“再生の物語”として読めてしまう。少女たちが走るたびに、終末は風に溶け、ページの向こうにうっすらと“続きの世界”が見えてくるんです。僕はその感覚を、祈りと呼びたい。

本記事の執筆にあたっては、公式情報および複数の大手メディアの記事を参照しています。
shumatsu-touring.jp
kadokawa.co.jp
kadokawa.co.jp
comic-walker.com
aniplex.co.jp
s.mxtv.jp
bs11.jp
wikipedia.org
zen-seer.com
anime-orbit.com
bigorgan81.com
bigorgan81.com
note.com