『薬屋のひとりごと』の梅梅は、鳳仙を慕い、羅漢への恋心をうかがわせながら、二人の再会を後押しした人物です。
あの窓を開ける場面を思うと、僕は再会の喜びだけでは受け止められなくなります。自分にも向けられかけた手を、誰より大切な姉のもとへ導く――その選択に、梅梅の優しさと、優しさだけでは説明しきれない願いが重なって見えるからです。
『薬屋のひとりごと』梅梅とは?三姫の華やかさに隠れた面倒見のよさ
梅梅(めいめい)は、高級妓楼・緑青館に所属する売れっ子の妓女です。白鈴(ぱいりん)、女華(じょか)とともに「三姫」と呼ばれ、猫猫にとっては幼いころから世話をしてくれた、姉であり母親代わりでもある存在です。
三姫との遊びは、高級官僚でも気軽には手が届かないほど高額とされています。その華やかな立場にいる梅梅が、猫猫のことになるとあれこれ世話を焼いてしまうところに、僕はほっとするのです。
公式の人物紹介でも、梅梅は面倒見がよく、妹分の猫猫にたびたびおせっかいを焼く人物として説明されています。アニメで声を担当するのは潘めぐみさんです。
梅梅の魅力は、美しさだけではありません。歌に加え、囲碁や象棋にも秀でており、客と盤を挟んで向き合う知性を備えています。
この「盤を挟んで相手と時間を過ごせる」という特徴は、羅漢との関係を考えるうえでも大切です。梅梅にとって囲碁は客を楽しませる芸であると同時に、幼いころから続く縁をつなぐものでもありました。
年齢については、数字を断定しないほうが正確でしょう。提示された人物資料には二十代後半という説明がありますが、アニメを扱う解説では正確な年齢は明らかでないとされ、第13話で猫猫が、妓女としては引退を考える時期だと捉えていることが紹介されています。
ここで受け止めたいのは、年齢の数字そのものより、梅梅もまた、自分のこれからを考える時間の中にいるということです。いつまでも誰かを見送る側でいられるわけではないと思うと、彼女の穏やかさの見え方が少し変わります。
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梅梅と鳳仙の関係は?禿のころから慕ってきた姉と妹
梅梅は、妓女の見習いである禿(かむろ)だったころ、鳳仙(ふぉんしぇん)についていました。鳳仙は猫猫の実母であり、梅梅にとっては長い時間をともにしてきた姉のような存在です。
そのため、梅梅と鳳仙の関係を、羅漢をめぐる恋の競争だけで説明することはできません。恋心という読みが成り立つとしても、その前から、梅梅には鳳仙を慕う理由があるのです。
アニメ第23話「鳳仙花と片喰」では、鳳仙と羅漢の過去に光が当たります。梅梅は、その二人が囲碁や象棋を通じて近づいていく時間を、そばで見ていた人物でもありました。
羅漢は鳳仙と勝負をするために緑青館を訪れ、梅梅も禿のころに羅漢から囲碁を教わっています。梅梅の現在の得意分野には、鳳仙と羅漢のいる風景につながる過去があるわけです。
技術だけを受け継いだのではなく、一局を囲む時間そのものが、彼女の中に残っていたのではないでしょうか。もちろん、これは僕の解釈ですが、梅梅の囲碁を単なる特技として読み流せない理由でもあります。
その後、鳳仙と羅漢の関係は大きくすれ違い、鳳仙は病を患います。それでも梅梅は、鳳仙とのつながりを失わず、その身を案じる側にいました。
ここには、華やかだったころの姉だけを慕っていたのではない、という重さがあります。かつての姿から変わってしまっても、その人を自分の大切な人として見続けることは、言葉にするほど簡単ではありません。
梅梅が鳳仙の再会を助けた理由には、羅漢への思いだけでなく、この長い姉妹のような関係がある。そこを置き去りにすると、彼女の選択はひどく平たいものになってしまう気がします。

梅梅は羅漢が好きだった?窓を開ける行動ににじむ願い
梅梅は羅漢に恋心を抱いていたと読むことができます。ただし、アニメの描写を考える際には、はっきりした告白と、言動から読み取れる感情を分けて受け止めたいところです。
2024年3月29日付のアニメフリークスの解説でも、梅梅が羅漢を好きだった可能性が、鳳仙の身請けにまつわる描写から考察されています。誰かに気持ちを言い切る場面ではなく、選択の瞬間にその輪郭が見えるところが、梅梅らしくも切ないのです。
羅漢は、鳳仙との一件によって緑青館から厳しく拒まれる立場になりました。猫猫を引き取りたいと足を運んでも歓迎されないなかで、梅梅は以前と変わらない態度で接していました。
ただ、この親切だけを恋の証拠にすることはできません。梅梅はもともと面倒見のよい人物ですし、羅漢とは幼いころからの顔なじみでもあります。
だからこそ重要なのが、猫猫との賭けに負けた羅漢が、妓女を身請けすることになった場面です。羅漢は、まずなじみの梅梅を選ぼうとします。
そこで梅梅は「選ぶならちゃんと選んでくださいね」と伝え、窓を開けます。離れにいる鳳仙の歌声が届き、鳳仙は亡くなったと思っていた羅漢は、彼女が生きていることを知るのです。
羅漢は鳳仙の身請けを決めます。梅梅が開けた窓は、離れていた二人を結び直す入り口になりました。
ここで、梅梅が自分を選んでほしかったと読む余地は確かにあります。鳳仙の存在を知らないままの選択ではなく、すべてを知ったうえで、それでも自分に手を伸ばしてほしい――そんな願いがあったのかもしれません。
一方で、これを唯一の正解にしてしまうことも避けたいのです。鳳仙に再会の機会を渡したかった、羅漢に悔いのない選択をさせたかった、という思いも、この行動から読み取れます。
梅梅が何をどれほど望んでいたかには余白がありますが、羅漢の選択を左右する事実を、自分から差し出したことは変わりません。
知らないままなら、自分が選ばれたかもしれない。それでも窓を開けたという順序に、僕はどうしても立ち止まってしまいます。
梅梅と猫猫の関係は?世話をする姉にも幸せになってほしい
猫猫にとって梅梅は、実の母とは別のかたちで、自分を育ててくれた大切な人です。猫猫が呼ぶ「梅梅小姐」、つまり「めいめいねえちゃん」という呼び名には、日々の暮らしで育った親しさがあります。
アニメ第13話では、再び宮廷へ向かう猫猫に、梅梅が化粧品など身の回りの品をたくさん持たせています。こうした世話の焼き方には、送り出したあとも困らずにいてほしい、という気持ちが見えるようです。
立派な言葉を贈る代わりに、必要になりそうなものを荷物へ詰める。その不器用なほど具体的な優しさが、二人の関係をよく表していると僕は感じます。
やがて鳳仙の身請けが決まったあと、猫猫は、梅梅を送り出したかったという思いを心の中で漏らします。そこから、猫猫が梅梅の気持ちに気づき、彼女の幸せも望んでいた可能性を読み取れます。
ただし、猫猫の計画を「梅梅と羅漢を結ばせるためだけの作戦」と言い切るのは慎重でありたいところです。猫猫には、羅漢への複雑な感情も、鳳仙との関係もあり、ひとつの目的だけで割り切れない背景があります。
それでも、この短い心情によって、梅梅は誰かの恋を助ける脇役だけではなくなります。梅梅自身の行く末を気にかけ、幸せになってほしいと願う人が、物語の中にいるのです。
僕はそこに、小さな救いを感じます。いつも誰かの支度を整える人のために、今度は別の誰かが、旅立つ道を考えている。
世話をする人は、強くて、困らなくて、ひとりでも平気な人だと思われがちです。でも猫猫の願いは、梅梅にも望む未来があることを、そっとこちらに思い出させてくれます。

梅梅の涙は何を意味する?再会の美談だけでは収まらない本音
鳳仙と羅漢の再会は、長いすれ違いの先にようやく届いた救いとして見ることができます。けれど、梅梅の立場から見直すと、それだけで閉じてよい場面とは思えません。
綺麗な自己犠牲の美談に見えますが、「姉の幸せのために恋を諦めた優しい人」とまとめた瞬間、梅梅が自分のために何かを願っていた可能性まで、薄めてしまわないでしょうか。
「ちゃんと選ぶ」とは、何を知って選ぶことなのか
僕が気になるのは、梅梅がただ身請けを断るのではなく、羅漢に選び直すための条件を渡していることです。あの短い言葉と、窓を開ける動作が、ひとつながりになっています。
鳳仙が生きていると知らなければ、羅漢は梅梅を選べたかもしれません。けれど、その選択には、羅漢自身が最も気にかける人の現在が欠けています。
梅梅は、その欠けた部分を埋めました。自分に有利かもしれない状況を保つより、相手が何も知らずに決めてしまうことを止めた、と見ることができます。
ここから先は僕の解釈です。もし梅梅が羅漢を慕っていたのなら、彼女が望んでいたのは、身請けされるという結果だけではなかったのかもしれません。
事情を知らなかったから自分になった、という関係では、いつか彼の心がどこにあるのかを確かめたくなる。梅梅は、その問いを胸に隠したまま、そばにいることができなかったのではないでしょうか。
「自分を選んでほしい」と「この人に間違った選択をしてほしくない」は、同時に存在し得ます。その二つが同じ胸にあるからこそ、あの行動は優しいだけでなく、痛いのだと思います。
なぜ梅梅の嘆きは、鳳仙へ向けられるのか
再会のあと、梅梅は鳳仙に、もっと早く素直になれていたならという趣旨の言葉を向け、泣き崩れます。アニメ第24話「壬氏と猫猫」で描かれるこの涙は、再会を喜ぶ笑顔とは違うものを残します。
ここで見落としたくないのは、嘆きの向かう先が鳳仙であることです。自分を選ばなかった羅漢に問いただすのではなく、慕ってきた姉に、取り戻せない時間への思いをこぼしている。
まずそこには、鳳仙がもっと早く救われていれば、という悲しみがあるでしょう。病を抱える姉のそばにいた梅梅だからこそ、ようやく再会できたという事実だけでは拭えないものがあったのだと思います。
同時に、もし羅漢への恋心を重ねて読むなら、その時間は梅梅自身が彼を思い続けた時間でもあったのかもしれません。ただし、涙のすべてを失恋に結びつけることはできません。
姉に幸せになってほしい。もっと早くそうなってほしかった。自分の願いは、いったいどこへ置けばいいのか。
そんな複数の感情が重なっていたとしたら、涙にひとつの名前をつけるほうが難しい。うれしいのに苦しいことって、あるよね。
誰かの幸せを望んだことは嘘ではないのに、その幸せを目の前にすると、自分の寂しさまで見えてしまう。梅梅の姿が胸に残るのは、そんな矛盾を、矛盾のまま受け止めさせるからではないでしょうか。
窓を開けた梅梅にも、選んだ人生がある
もうひとつ、僕が大切にしたいのは、梅梅を「選ばれなかった人」とだけ呼ばないことです。確かに羅漢の身請け相手は鳳仙ですが、この場面を動かしたのは梅梅自身の判断でした。
鳳仙の声が届くようにする。羅漢に本当の状況を知らせる。その行動によって、長く隔てられていた二人の関係が変わります。
梅梅は、自分の望みどおりにならなかったかもしれない人であると同時に、自分が守りたいものを守るために動いた人でもあります。悲しみがあることと、主体性があることは両立するのです。
だからこそ、彼女の涙を弱さとして片づけたくありません。自分で選んだ行動でも、傷つかないわけではないし、その痛みを最後まで黙って引き受けなければならない理由もない。
どうか、梅梅自身の願いにも、誰かが耳を傾けてほしい。あの窓の向こうへ人を送り出した彼女にも、安心して自分の未来を望める時間があってほしいと、僕は思います。

梅梅の人物像をどう捉える?誰かを思う力と、自分の未来
梅梅の人物像の中心には、相手を気にかけ、その人に必要なものを具体的に差し出す姿勢があると僕は考えます。猫猫には旅立ちの支度を、羅漢には選択に欠かせない事実を、鳳仙には再会への機会を渡しました。
ここで興味深いのは、梅梅が相手の結論まで決めてはいないことです。窓を開けても、羅漢がどうするかは羅漢の選択に委ねられています。
その距離の取り方には、相手への理解と同時に、自分にはどうにもできないものを知る切なさがあります。心を動かすことと、心を自分の望む場所へ向けさせることは、同じではないのです。
囲碁に優れる梅梅だからといって、この再会を巧みに仕組んだ勝負のように捉える必要はないでしょう。むしろ僕には、盤上なら考え抜ける人が、人の心については結果を引き受けるほかなかった場面に見えます。
今後の梅梅を考えるときにも、羅漢への思いが報われるかどうかだけを物差しにしたくありません。彼女には、長く磨いてきた芸と知性があり、猫猫や鳳仙と築いてきた関係があり、自分自身の生活があります。
誰を好きだったかは大切な問いです。でも、その恋を通して何を守り、どんな自分であろうとしたのかまで見つめると、梅梅はもっと奥行きのある人物として立ち上がります。
梅梅は緑青館の三姫の一人で、猫猫を育てた姉のような存在であり、鳳仙の妹分でした。そして羅漢への恋心を感じさせながらも、鳳仙の歌声が彼に届くよう、自ら窓を開けました。
その姿を、ただの優しさにも、ただの失恋にも閉じ込めたくありません。誰かの幸せを願う心の中に、自分も幸せになりたいという思いがあっていい――梅梅の涙を見つめるたび、僕はそう感じます。
よくある質問
梅梅と鳳仙は実の姉妹ですか?
実の姉妹として描かれているわけではありません。梅梅は禿だったころから鳳仙についていた妹分で、姉のように慕う関係です。
梅梅は羅漢に身請けされますか?
ここで扱ったアニメ第1期終盤では、羅漢が身請けするのは鳳仙です。羅漢は当初、梅梅を選ぼうとしますが、梅梅が窓を開けたことで鳳仙の生存を知ります。
梅梅と羅漢、鳳仙の関係がわかるのは何話ですか?
アニメ第23話「鳳仙花と片喰」で鳳仙と羅漢の過去が描かれ、第24話「壬氏と猫猫」で身請けにまつわる梅梅の行動や涙が描かれます。梅梅と猫猫の日常的な親しさは、第13話「外廷勤務」でもうかがえます。
相沢 透(あいざわ)
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